洗足池

昨日の夕方から降り続く雨で、今日はひんやりどころではなく、寒いです。
最高気温が17℃で、冬の装いがちょうどいいって感じです。
あと二週間で立冬ですものね。


Yさんは心臓のために入院して三週間目になりました。
最初は検査入院とのことだったんだけど、どうも心臓は思った以上に悪く、なかなか退院できない状態です。


今日、ふみとお見舞いに行こうと、午前、雨の中、ふみと出かけたのです。
さむ〜い。ブーツを履けばよかったなと後悔するわたし。


駅の花屋で、淡いピンク色のお花を包んでもらって、エスカレーターで改札方面に降りて行く時、隣りの登りエスカレーターで、騒ぐ声が聞こえてきて、見てみたら、倒れてる女性を必死に立たせようと、一人の女性がその女性を引っ張りながら、言葉で励ましてる。
女性の周りにものが散乱してる、それを拾いながら、終点が近づいてくると共に、緊張感が走る。

その少し後ろで、今度は年配な男性が、人に脇を支えられて、頭から血を流して、なんとか立っている。


どうしたんでしょう。乗るところで、二人で転んだのでしょうか。


エスカレーターを降りて、登りのところを見てみると、血が点々と…


ふみはそれを見た途端、
「違うよ違う、血じゃないよ。絵具だよ、あのね、絵具をね、誰かが溢して…」とやたらと饒舌です。
ふみは、血がとっても怖いんだ。ま、大人もそういう人が多いから、まして子供だから。


「そうよ、絵具だよ」とわたしも言った。


それからしばらくの間、ふみは懸命にそれは絵具だと証明しようとしていた。


電車に乗り、座席に正坐して外の風景を見ていて、やっと絵具のことを忘れたようです。
やれやれ。


総武線に乗って、山の手線に乗り換えて、五反田に着きました。

駅から見る五反田の街、ちょっぴりなつかしい、大學の3、4年はここでしたから。


東急池上線に乗り換える。ふみにもわたしにも初めて乗る電車です。
短いかわいい電車で、住宅に近い線路を走っているのが、わたしは好きです。


洗足池についた。
駅を出てすぐ目の前にある洗足池は雨の中。枝垂れ柳は寒々と揺れている。


寒い寒い。バスはあと10分以上もあるので、タクシーを拾って、病院に向かいました。



ベッドに座ってテレビを眺めていたYさん、驚くほど痩せていました。
眼の下も黒く、その小さい体を見た瞬間、思わず胸を詰まらせたわたし。


入院した時は、足がパンパンになり、心臓のレントゲンは、白くなっていたそうです。
つまり心臓が弱くなると、循環が悪くなり、体の中の水分をうまく代謝できなくなっているとのことです。


心臓は、すでに肥大して(過労の象徴)、状況は相当悪い。


お医者さんの説明では、1〜10まで悪い段階を例えれば、もう9を超えてる段階です。
余命と言えば、三か月ぐらいかな。
と言っていたそうです。


それを聞いてYさんは少しも動揺せず(という本人の話だが、実際そう宣告されて動揺しない人間がいるのかしら)、
「それはそっちのご判断でしょう。わたしは、わたしの信仰というものがあります。わたしは絶対大丈夫です…」と、Yさんはお医者さんに説法したそうです。


Yさんらしいですね。


前々からわたしはYさんの、その信仰に対する疑いや動揺など微塵もない強い気持に、感心いたしており、自分はそこまでできない人間だなと感慨深いものでありました。



Yさんは、いつもその信仰の力で助けられていて、それで、もっともっと深く信じ、信じてるから、いろんな無駄な気持がなく、だからこそ困難に勝てる。勝ったらからもっと…、こういう循環軌道に乗っているような感じでしょうね。


今回も、三週間の入院予定だったが、また一週間延ばされ、でも来週はきっと退院できると、Yさんはそう楽しみにしていらっしゃるようです。


ふみは、ハンカチで包んだ、昨日拾ったどんぐりをYさんへのおみやげにした。

Yさんの足にマジックで書かれている検査の印の“×”を指さして、
「なんですか?これは、どうしてYさんは入院したの?」と聞いたり、Yさんの手を触ったりして、Yさんは喜んでいました。



花瓶を借りに、わたしは一人でナースセンターに行って、また流し台まで行ってお花を生けて帰って来たら、ふみはなんやらYさんとお話をしていた。
あとで聞くと、「浅虫に行く時の話だよ」とふみは言う。


30分ぐらいかな、Yさんの話を聞いて、あまり疲れさせちゃダメだと思って、ふみと出てきました。出てくる時、ふみはYさんのホホにチューをした。

エレベーターに乗るまで、廊下の角にYさんはずっと立ってこっちを見ていた。


2、3週間で、12キロも痩せたというYさんは、本当に小さく見えて、弱く見えて、
また昔のように回復できるのかな、難しいのでは…、そんな気がして、ふみの手をつないで、エレベーターに乗った。



「ママ、歩いて駅に行こう」とふみは急に言う。
「え?いいけど」。とわたしはふみの手をつないで道に沿って歩く。

雨は上がった。でも風は体の芯まで入って、寒い。


あれ?この方向でいいのかしら。向こうから歩いてきた男の人に訊ねる。
「逆だよ」とその人が笑って答えた。



バス停が目の前、時間表を見たら、もう来る時間、一分間ぐらい待ってたら、バスが来た。


バスを降りて、灰色の洗足池が目の前。




長椅子は濡れてるから、ふみと立ってしばらく池を眺めてた。


誰かが落としたパンがあって、それを枝で池まで落としたら、大きい鯉がたくさん集まってきた。
ふみは喜んだ。



池上線のホーム



代々木で総武線を待つ。




雨は、明日も一日続くそうです。