お正月?

昨夜から雨が降り出して、今日一日雨でした。

それでもお巡りさんたちは雨の中で近所で巡邏し、上空ではヘリが低く飛ぶ。
アメリカの大統領がくるから、この近くのある場所に光臨するので、警備が物々し
い。

去年だったかなあ、前のサミットの時もこうだった。

御苦労さま、御苦労さま。


朝食が終わって、ふみはいつものようにトイレに行きたくなったみたいで、けど、教
育テレビの子供番組に見入っていて、「ママ、一時停止してぇ〜」と言う。


「一時停止?だめよ。これDVDじゃないんだから、テレビだから」
「いやだ!やって」と、ふみはむずむずし始めた。


テレビだから一時停止できないことは、ふみも知ってるはず。ただ見たいし、トイレ
も行きたいし、どうしたらいいかわからないのでしょう。


むずむずが、だんだん泣き声になった。


なんだか一気に腹が立ってきたわたし。
朝早々からこの泣き顔と、すぐにはやまない泣き声に、疲れが一気に湧いてきた。

いいかげんにしなさい。


ふみに怒った。同時に怒った自分にもショック。


ふみは余計に泣く。外もふみの顔も、雨じゃーじゃー。勘弁してぇぇぇ。


最後は、ふみに、ふみを知らないおじさんにあげるよ、ママの言うことはふみは聞かない
し、もうよそに行っていいから!と言って、わたしは横になった。

疲れたし、自分を落ち着かせたいのもあったから。


ふみは泣きながら、わたしの後ろでよこになった。
なにか言葉をかけてくるのかなと思ったが、結局なにもなく、ふみはただわたしのう
しろで横になっただけ。


登園の時間だし、仕方なく起きて、言葉を交わさずふみにレインコートを着せて、ふ
たりは黙って雨の登園道。


急に、ふみは、「知らないおじさんのうちに行かない、ふみちゃん、ママのうちがい
い」と言って、しくしく泣き始まった。

わたしを仰ぎ見るふみの顔に、雨が降って来て、あっという間濡れた。
ふみを抱きしめたいが、でも、こんな簡単に譲歩したら、ふみはなんも直らないと思
うと、やめた。


ふみを保育園に入れて、激しい雨の中、電車に乗って、大事なお買い物へ出かけた。


雨風はずっと強かった。


昼近く帰って来て、荷物をおろして、ノートを持ってその足で喫茶店へ行った。


カフェラテを頼み、椅子に腰をおろし、やっと一息。

少し休んで、ノートを取り出したが、ボールペンを手提げに入れてないこと気づいた。

茶店を出てコンビニに行こうと思ったが、雨だしね。
レジに行って、ボールペンを貸していただけます?と頼んだ。


レジに並んでるサラリーマン風の中年男性が、
「よかったらどうぞ」と、黒いボールペンを渡してくれた。
「えぇ?いいんですか?すみません」
「いいですよ。僕、いつも二本持ってるから」と、男性は背広の内ポケットを開いて
見せてくれた。
本当だ、もう一本がポケットにある。


ありがたいですぅ。


茶店に3時ぐらいまで座って、もっと自分の時間がほしいなと思いながら、スー
パーにお買い物。



ふみ、どうしてるかな。まだ悲しい顔をしてるかな。一日中しょんぼりなのかな。


いつもより一時間早くお迎えに行った。


お部屋の入り口で、S君一人で電車を作って遊んでる。
「ね、ふみ君のママ、これ見て、これね、空港に行くの」
「あら、空港?じゃ、飛行機乗るの?」
「うん、乗る」
「そうだ、昨日、ごちそうさまでした。おうどん、おいしかったよ」
S君はとてもうれしそうに笑った。


「ママ〜今日早いね」とふみは走ってきた。
顔は晴れ晴れ、何事もないようだった。
いつものように「なにかご褒美は?今日はある?なに」と聞くふみ。


ほっとした。
ご褒美はあるよ。スーパーでお買い物の時、ペコちゃんのチョコ買った。
ペロペロキャンディーのように、かわいい棒が刺してる華やかなペコちゃんチョコな
んだ。


雨は、もう小降りになって、ふみはチョコをおいしそうにかじる。
おいしい?と聞くと、
食べていいよ、一口ねと、ふみはチョコをわたしに伸ばした。

「うん、甘いね、おいしいね」
「ママ、今日はお正月?」とふみは言った。


あははは、ちょっと、そんな悲しいことを言わないでよ。
チョコを食べられるとお正月だ思うなんて、戦時中じゃあるまいし。


ふみはまったく気にせず、おいしそうにチョコをかじりながら、長靴で雨水を弾きな
がら、愉快に歩く。


今年のカレンダーは、あと2ページしかないね。