白い金魚
夕べからの雨、今朝になってまだしとしと。
教育テレビの9時からの粘土人形劇のドラマの《ひつじのショーン》を見て、ふみはいつもゲラゲラと笑う。毎週土曜日の楽しみなんだ。
窓を全開しても空気の動きが感じなくて、むしむし、じめじめ。
やることがないから、ずっと《お菓子と娘》を歌ってました。
遊んでるふみも時々参加。
昔の歌って、やっぱりいいですね。
「ママ、ママ、ちょっと来てぇ」ふみは神妙な顔をしてやって来た。
「なに?」
「来てぇ、金魚を見てぇ」「金魚がどうしたの?」
「早く来てぇ」
ふみに手を引っ張られ、金魚鉢を覗いてみたら、
赤い体に白いシャツ着てるような金魚、死んでる。
びっくりして。
こういうの苦手わよ。
「ふみ、何で見せるの?言葉で言えばいいんじゃない、何回も聞いたじゃない、金魚死んでるよって教えればいいのに。ママがこういうの嫌だとふみもわかってるよね?なのにわざわざびっくりさせて、びっくりしてるママはそんなにおもしろい?」
ふみは、ぼーっとしてわたしを見る。
「そうでしょう。びっくりして、怖がってるママを見て、楽しいでしょう、楽しいよね」
ふみは戸惑った顔で「違うもん」と小さい声で言う。
「違わないよ。そうに決まってる」
わたしは意地になってきた。網を手にとって、素早く白い金魚を掬い上げ、袋に入れ、そしてその袋をキツく縛る。
ふみは無言で動いてるわたしを凝視する。
少し落ち着いてきた。
「ね、ふみ、何でママに見せる?楽しい」
同じ言葉だが、顔に誠意が浮かんでること、自分でわかる。だってわたしの気持ちは落ち着いているんだから。
ふみは少し黙ってから、しくしく泣き始めた。
涙ぼろぼろこぼれ落ちて、「だ、だって、ぼ、ぼくも怖かったもん」と言って、ふみは泣きだした。
ふみを抱きしめた。
ふみの背中を撫でながら、
わたしって、なんでこんなイジワルの発想なんでしょうね。
自分が自分のことにショックを受けるほど。
こういう、ひねくれた自分に、へこんでしまう。
素直になろう、なります。
「雨上がったね、ふみ、お買い物に行こうか」
ふみと手を繋いでしばらく歩いたら、雨またパラパラと降ってきて。
仕方なく屋根の下で雨宿り。
夏に備える虫除けなど、いろいろ買って、帰り道にふみは巨大な蚊取り線香の缶を持ってくれた。
しかし蒸し暑いな、ふみの髪、ずっと濡れてるように見える。
荷物を降ろして、ふみの水泳へ。
今までふみのいるグループは、ちょうどガラス越しの待合室から、あまり見えない場所にいる時が多かった。
それが再開してからいろいろと変わって、ちょうど目の前でやるようになった。
するとふみの動きが細かく見えるように。
勝手に水に潜るわ、先生が潜ってと言う時、そう見せかけて、実際鼻を出してるわ、意味なくジャンプするわ、プールサイドを掴もうとする時、滑って、…。
や〜、ハラハラして疲れて、(-o-;)
「親と言う字は、木の上に立って見る、なんだよ」という知人の言葉を思い出した。
木の上ね、ちょうどいいかもね。
スイミング終わり、約束通り、ペットショップに向かう。
金魚を買うんだ。
このペットショップは、ふみが大好き。
結構なにおいも全然平気。
「白、あの白のがいい」と言うふみは、店員のお姉さんに、「僕、取れるから、僕がやる」と、とんでもないことを言い出す。
大型犬は店内をのんびりと散歩し、巨大な亀さんも自由に通路を横断。