テスト
涼しくなって雨が降るとの予報だが、
今朝のまぶしい日差しの中に目覚めた。しかも暑い。
ま、洗濯物が乾いて助かると思えば。
近所のガレージの使っていない蛍光灯のところに、
つばめが巣を作っている。
ふみと覗きに行って、口を開けたひなたちがいると思ったら、まだ母親一人だった。巣の中でじーっと座り、たまごを温めているのでしょう。
「ママ、保育園に行く時、さきにここをよってから行こうね」
そうね。
もう六月末になって、お世話になった方にお中元を贈らないと。
ふみと新宿のデパートへ行った。
今年は、日持ちの良いお菓子にするわ。
飽きないし、なにより防災食品にもなれるし。こんなご時世だもの。
お中元の試食コーナーで、ふみ、あっちこちの店員さんに呼ばれ、思う存分ハム、ローストビーフ、ソーセージをおいしそうに召しあがる。
「ふみ、ダメじゃない」
「いいじゃない、お母さん、試食だもの、別に買わなくても全然かまわないから」と店員さんが。
そう言われても。
「ママも食べて、これおいしい」
曇って来て、降る前にうちに帰った。
午後は、ふみのスイミング。
今日は月末のテスト。ふみ、めずらしくそれを何回も口にした。
前は全然気にした様子がなかったのに。
スイミングスクールに着いた時、まだ、ふみたちのコースに時間があった。
並んでるふみの後ろで、顔がそっくりの兄弟が喧嘩をしている。
すぐ近くにふみは立って、ずっとそれを見ている。
喧嘩はだんだん激しくなり、聞こえたお母さんは保護者席から来て制止した。
お母さんが戻ったまもなく、兄弟喧嘩再び始まる。
ふみが口を開いた、「ね、いつもふざけてるの?」と弟のほうに指さして、お兄さんに聞く。
この言葉は、お兄さんにとって持ってこいのチャンスになったみたいね、
「そうだよ、こいつね…」
それを聞いて悔しがる弟は、ベソかきながら、持ってるタオルでお兄さんを叩く。
お兄さんは激怒、その時ふみはお兄さんに「タオルだから、痛くないよね、ね?痛くないよね」と。
それを柱の後ろから眺めるわたし。「ふみはいいから」って心の中で言う。
レッスンが始まった。
ふみたち初級の子は腰にピンクのヘルパーを付けて泳ぐ。
途中で先生一人が、もう二人とちょっと打ち合わせして、ふみともう一人女の子のヘルパーを外した。
だいじょうぶだと思ったからかしら。
ふみ、進級できるんじゃないと思った。
テストが始まった。
みんなプールサイドに座り、一人一人泳ぐのを見つめる。
ふみを見ていると、背中から緊張が伝わってくる。
ふみは、水着のウエストの紐を、手で引っ張って、かじり始めた。
かじっては引っ張り、かじってはひっぱり、とうとう、紐が完全に抜けて来た。
びっくりしたふみは、それを丸めて握りしめる。
そろそろふみの番という時だった。
先生はそれに気付いてなかった。
テストの時、ふみは片手のひらにその丸めた紐を持ったまま、ビート板を掴んで泳ぎ始めた。
事実上、片手だけビート板を掴んで泳いでるから、途中で何回かバランスを崩しそうになった。
テスト終わって、プールサイドに座るふみは、片手をわからないように、手の形をできるだけ自然に装って、丸めてる長い紐を手で覆った。
出て来て、ふみはカードをわたしに見せた。
進級、できてなかった。
なにも言わずにふみに笑顔を見せた。
雨、降って来た。
ふみのレインコートを持ってきてよかった。
「よかったね、えらいえらい、おめでとう」ある親子はわたしたちを越えて、前のほうに歩いた。
男の子は嬉しそうにお母さんの顔を見上げて、お母さんは手のカードを眺める。
「のど渇いた?」と、わたしはふみに聞く。
「うん!」
「ごくろうさん」わたしはベットボトルのお茶をふみに渡した。
「ママ夜ご飯なに?」
「う…ん、適当に作るよ」
「適当じゃいやだよ」
「ママは適当に作ってもおいしいのぅ」
ふみ、紐を引っ張らなきゃ、テスト、できたのに。だからそういうことしないでってママがいつも言ってるでしょう?ほら、聞かないからこうなったでしょう。
心の中でわたしはこう言った。
この言葉が口から出てこないようにとでも思ったのか、わたしは歌いだした。
「♪お菓子の好きなパリ娘〜」
ふみも一緒に歌う、「♪食べて口拭くパリ娘〜」
わたしと違って、人が通りかかると、ふみはすぐ歌うのをやめて、しかもわたしの手を揺らす、「ママ、ママ」
「なに?」
「人がいるよ」
「だから?♪人が言おうと笑おうと、小歌混じりで…」
夜寝る時に、暗くした部屋の中で、ふみに言った。
「泳ぐの、楽しいな〜って、ふみがそう思うなら、パパママはそれで充分、テストだなんて、気にすることないよ。進級とか、なんの関係もないから、ただただ泳ぐの楽しいな、また泳ぎたいな、それだけでいいよ、ほかのことはなにも考えなくていいから」
ふみは成長と共に、プライドや、欲が出て来た。
常に勝ちたい、一番になりたい、合格したい、と思ってるようだ。
わたしはこれがわるいとは思ってないが、これによって、不必要なストレスや緊張が出てくるのは良くないと考えてる。まだ5歳のふみには要らないものだと思ってる。もう少し小さい時のスイミングのテストなんて、ふみは言われないと覚えてなかったのに、今回のテスト、ふみは相当気にしてるのがわかって驚いた。
ふみは日々成長していく。
それを例え一つでも、見そびれないように、見守っていきたい。
週刊誌に、25日の今晩、南米謀国のえらい予言者が、地震が日本に来ると言って、
しかも時間がやけに具体的。
今晩、かれこれ考えてるうちに、地震の時間まで、あと20分しかないじゃありませんか!
シャワーも浴びていないのよ。断水したりしたら、次のお風呂はいつになるか。
急いでシャワーを浴びて、地震発生予言時間に、歯を磨きながらテレビを眺める。
なんや、速報か警報、ないやないか。
胸を撫で下ろした時、ふと、これは南米の時間での予言なのでは。
12時間時差で、すると明日朝とか?
\(◎o◎)/!