餃子の味
揺れなんぞはなく、涼しい平和な朝を迎えた。
南米の予言者はん、冗談がちょっとキツイやおへんか。
それはさておき、危機意識というか、もう頭に固定してる。
「ふみ、本棚の前で遊ばないよ、地震きたら埋められるから」
「ふみ、ママちょっとおトイレ。地震もし来たら、ママを呼びに来なくていいからね、すぐベッドに行くのよ、わかった?」
日頃の言葉。
我が家は、ベッドの部屋なら、倒れるものや、飛んで来るものはないから。
ベランダのミント、50センチぐらいまで伸びて来てる。
植えてないのに、土に入ってる種かな、いつの間にか芽が出てきて、ここまで大きくなった。
「有心栽花花不開
無心挿柳柳成陰」
丹精込めてお花を植えても、咲いてくれないが。
適当に土に挿した柳は、
涼をとる陰になるほどに育つ。
物事って、こういうものでしょうね。
“思う通り”がそもそも間違いの元でしょうね。
こちらはKさんから頂いた朝顔。
蔓が芽生えてきて、ベランダの柵を纏って上がる。
朝顔は育てたことがない、うまく咲いてくれることを祈る。
そしてこちらの細くて小さい芽は、ついこの間ふみと一緒に植えた葱なんだ。
ペットボトルのお茶を買ったら、おまけの野菜の種が一袋付いてた。
でもこの鉢は小さくて、植え替えなきゃダメなんでしょうね。
朝ご飯のあと、ふみは宿題を積極的にやった。
それからオモチャで遊ぶ。いっぱい戦いの擬声を発してのあと、ふみは走ってきて、
「ママ、このウルトラマンのエースと、レオと、初代、どっちが勝つと思う?」
「え?ウルトラマン同士なのに、お互い戦うの?地球を守るための時だけ戦うかと思った」
「そうだよ、でもね、あのね、…、あ、宇宙に帰るとね、ウルトラマンたちだけだから、戦うよ」
「やることがないから?」
「うん。うん?違うよ」
「はははは」
今日は涼しい、昨夜はクーラなしで眠れて、幸せですこと。
ふみとスーパーにお買い物。
昔、柔道をやってたという店員さんのお兄さんが、挨拶してくれて、
ふみに「柔道、楽しい?楽しいでしょう」
「あまり楽しくない」
「え?!なんだよ、ダメじゃん!頑張ってよ、せっかくいい体してるんだから」
「あ、お兄さん、ここ、こんなのが置いてる」ふみは目の前のパンの棚に、なぜか置いてる大きい炭酸飲料のペットボトルを指差す。
「お客さんが忘れたんだな、戻さないと」
「僕が戻す!」
「あそう?じゃ、頼もうかな」
ふみはその大きいペットボトルを抱えて走って行った。
それをちらちらと見ながら、わたしは買い物を続ける。
「ねママ、僕お兄さんのお手伝いをするから、ママはお買い物してて、出る時は僕を呼んでね」
ふみは走って戻って一言置いて、またお兄さんところへ走って行った。
「お兄ちゃんはいいから、ママのお手伝いして」とお兄さんは笑う。
「いいの、僕お兄さんのお手伝いしたいから」
わたしはさらに離れたところから、ふみを見ることに。
お兄さんが、魚のパックがたくさん並ぶ大きいトレイを持ってきた。
ふみはパックを一つ一つ卸して、冷気が吹き出す棚に、一生懸命並べる。
後ろに立ってるお兄さんが「ゆっくりゆっくり、もうちょっと丁寧に」と心配そうにふみを見守る。
ゆっくりゆっくり、もうちょっと丁寧に、わたしがいつも口にする言葉と同じだ。思わず笑ってしまった。
夕食、久しぶりに餃子を作りました。
ふみの大好きな、大根豚肉蒸し餃子を。
長時間にずっと同じ姿勢の自信は、まだないですから、
パパを頼んで、夕べのうちに大根と人参を千切り器で細く摺ってもらいました。
今朝は小麦粉を捏ねて、
午後は具を調味して、皮を一枚一枚、麺棒で伸ばして、包む。
10分から15分ぐらい蒸し鍋で蒸して、餃子の美味しそうな匂いが出てきました。
ふみが餃子を一口かじって、大声で「あ〜、被災地にボランティアに行きたぁい」
??なにこの感想は。
「ぼく、ずっとボランティアに行きたくて、頼むから、どこか行けるところ、ない?」
吹き出してしまいました。
これはまた、どうしちゃったのかしら。
「ぼくは、なんでもするよ」
「ふみ」パパは口を開いた「ボランティアは遊びじゃないよ、たいへんなことだから、あわてんぼうとか、人の話し聞かないで勝手にやるとか、全部ダメよ、かえって迷惑。今のふみは、ボランティアにいかないのが、最大のボランティアだ」
声を出して笑いたいが、堪えた。
「何がたいへんなのさ」ふみは諦めない。
「そりゃ、瓦礫だらけだから、クギで足を刺されるとか、あとは腐った魚の匂いだって…」
「食卓で、匂いの話しはちょっと」わたしはパパを制止する。
今は、まだ6歳にもなってないからとんでもない話しだけど、
ふみが高校にでもなったら、ママは絶対ふみをボランティアさせるよ。
「餃子は、どう?」
「おいしいおいしい」
「うまいうまい」
よかった。