あめ玉

天気予報の「曇りから晴れ」とは違って、朝から雨。昼頃になったら、一時ザーザーと、雷も鳴りまして。


が、梅雨、もうそろそろ明けることでしょう。


夕方、ふみをお迎えに行く時は、雨もすっかり上がりました。


昨日の連絡帳に、
もしタオルケットなどを噛んで濡れたら、お手数ですが、返して頂けますか。お洗濯します。
と書いたのです。


「ふみ君のお母さん、F先生からの伝言ですけど、今日はタオルケット、返さなくて大丈夫です、と」
お部屋は担任のF先生がいなくて、4歳児の担任の男性の先生がいました。


「じゃ、今日はタオルケットを噛んでないということですか?」とわたしは声を小さく先生に尋ねて、


「はい。そうみたいですよ」先生は微笑んで。


そうですか…。


塾を向かう道で、
「ふみ、今日はタオルを噛んでないんだって?」
「うん!そうだよ」
「え〜、噛みたくなかった?」
「噛むの、忘れちゃった、はははは」

(≡^∇^≡)


後ろから女の子を声をかけてきて、
同じ塾の、小学一年生。


女の子は落ち着いてる口調で、自分の名前と小学校の名前を教えてくれた。
その小学校は、今度ふみと見学しに行こうと思ったところなんだ。


ふみの先輩になるんだね。
しかしふみと、たった一歳の差だけなのに、この落ち着きはなに?


ふみは、楽しそうにお喋り。



小学生が言うには、塾に通ってるおかげで、小学校の宿題はとても簡単と感じるって。

「なんか、あめ玉のにおいがするね」
ふみだ。塾に行って、夕飯は少し遅くなるので、お煎餅二枚とあめ玉一つをあげたから。

「なんで飴を食べるの?」
「ママがさ〜、無理矢理に食べさせたんだよ」


はあー?
「ママママ、ご褒美は?ないの?いやだ、なにかちょうだいよ」とか、しつこく言ってるのは、どこの誰だい?

飴食べてるのは、今さら格好わるいとでも思ったのかしら。


バッグを探したら、あめ玉がもう一個出てきて、Aちゃんにあげた。


「ありがとう」Aちゃんは素直に受け取り、「でもね、塾まで食べきれないから、終わってから食べる」
Aちゃんは口調から声から表情から、落ち着きそのもの。


ひゃ〜、感心するばかり。




少し前の夕方かな、家事をやりながらテレビをチラチラと見ていたら、

東北の被災地が映ってました。
海辺で、あるおばあちゃんが、小さい、まん丸の石を拾ってました。

カメラは、余計なざわめくはなく、ただただそのおばあちゃんを黙々と傍から映す。NHKらしい。


重くなった袋をしょって、おばあちゃんは帰り道へ。
背中の石の重さで、おばあちゃんはたいへんそうに登り道を上がる。

うちに着いて、慎重に石を卸しておばあちゃんは、石をお庭に敷き始める。


敷きながら、カメラに向かってもなく、独り言のように喋りだす。


津波ここまで来てね、庭がこんなに汚くなって。
毎日こうやって少しずつ石を拾って来て、少しでもきれいにしたい。
庭先が汚いといやでしょう。
少しずつ少しずつ直していかないと。
津波また来るんじゃないかってみんな言ってるよ、
ま…、来た時は来た時で、今はこの庭を少しでも直して、きれいにしたい。
明日も、また石を拾いに行くよ、へへへへ


いつの間にか、家事をやる手が止まって、画面を見つめて、不意に涙がこぼれてきた。


母を思う。


この姿形が母と全然違うおばあちゃんが、母親と重なって見えてならない。


母の人生に、本来しなくていいはずの苦労が多すぎる。
母はただただ、黙々と、人間としての品格と尊厳を保ち、穏やかに、できるだけのことを務める。


美しいものの美しさを、動揺せずに信じているのでしょう。


今のこの物騒な世の中、
母親を、その石を拾うおばちゃんを、
わたしの理想と目標としたい。