シャンプー

Mさんは、アメリカ人の女性です。
スラッとしている長身のMさんは、メガネをかけていて、髪をアップしたり、降ろしたり、長袖の白いシャツをズボンに入れ、日傘をさし、

遠くから歩いて来る姿は、品のあるインテリな雰囲気が溢れる。

見ていると、アメリカ映画に出てくる、昔の小学校の教師を思い出す。


ご近所とのことで、すれ違っているうちに、段々笑顔を交わし、会釈を交わし、いつの間にか言葉を交わすようになりました。


Mさんは日本語がとても上手で、翻訳のお仕事をなさっていて、近くの宗教団体でお勤め、その団体の本を英語で訳しているそうです。


ふみとも喋って、ふみは、この上品なMさんが好きなようです。


梅が実った時期に、Mさんはよく立ち止まって、笑顔いっぱいで、しばらく青い梅を仰ぎみるのです。


そういう時に、ふみはわたしの手を離して、走って行って「何を見てるんですか?」と声をかけます。


3月の大震災の直後、ふみと歩き回ってパンを探す時、Mさんと会いました。


どこに行っても、パンもカップ麺も、いろんなものがないですよと言ったら、
Mさんはゆっくりと頭を横振りながら、「大丈夫です。大丈夫です。きっとすぐよくなります」とわたしたちに言いました。


地震が過ぎ、原発のことが始まり、暑くなってきて、そういえば、Mさんとあれ以来お会いしてません。


強い日射しに照されてる交差点で、ふみと信号を待っていたら、

「あっ」というふみの声が聞こえ、その視線のさきを見てみたら、

Mさんだ!


亜麻色の髪は、耳の後ろに降ろして、
白い傘と白いシャツ、ベージュ色の長いズボン、
Mさん、何も変わらないMさんだ。
なぜかほっとしました。


「お久しぶりです。お元気でしたか」Mさんの独特な日本語発音、これも変わりがなく、心地よいものです。


「名前、なんでしたっけ、忘れた」とふみが、


「おー、M、Mです」

ふみは舌を巻きながら、Mさんの英語発音を真似して、

「おー、上手ね、パーフェクト」Mさんのパーフェクトという発音は、完全に“perfect”のままでした。


青空、白い雲、眩しい日射し、
顔見知りの方と再会。

この暗い夏の、明るい出来事なんです。



夜9時、わたしが風呂場にいる時でした。
急に、ドスンと感じてから、ガタガタなって、ちょっとびっくり。
地震だ。


ちょうどシャンプーをしていて、
これは断水かもしれないとの思いで、とにかく一生懸命、泡を流してました。


栃木県、5弱。


汚染されてるお肉、お野菜、お茶、食べられないものはどんどん増えてる、

おまけに、時々こうやって揺れる。


すごい時代に居合わせましたね。