カラス
夕顔は見事に日焼けしましたね。
朝、ベランダの植物たちに水をやって、それからしゃがんで、しばらく花たち、葉っぱたちを見る。
毎日のように誰かが枯れて、誰かが咲いて、誰かがしょんぼりになって、誰かが胸を張る。
きっと、わたしがいない一日の間、たくさんの物語があったんだろうね。
知りたいよ、誰かしゃべってちょうだいな。内緒にするからさー。
こちらはお寺の蓮を、真上から撮ったものです。
開けてるベランダの扉から、向うの屋根が見える。
カラス一羽が来て、扉から見ると、とても近く感じる。
「あ゛、あは、あは、あははは」とそのカラスの鳴き声は、まるで大笑いのよう。
ふみは扉にところに立って、そのカラスの真似をする。
「ふみ、やめたほうがいいよ。カラスがバカにされたと思うとたいへんだから」
故郷では、カラスは不吉な、縁起悪いものの象徴。
来日したばかりのわたし、東京街頭の数え切れないほどのカラスに衝撃を受けた。この国、どうなるんだろうって。
わたしは親友に手紙をだす。
日本は、とても清潔なところなんだ。緑が豊かで、空は青い。
それになにより、東京という大都会なのに、街中、大きい翼の鳥が、自由自在に飛び回る…。
その後、彼女が来日して、
「あなたが賛美してた大きい翼の鳥って、カラスではないか!」と憤慨してらした。
ほほほ、若きあたくし、冗談のスケールは今より全然大きいな。
その度胸は、年令と共に、行方不明。
夕方、坂道を登って、家が見えるところで、
ちょうど遠くから、ふみとパパも帰ってきた。
パパに言われて、わたしに気づいたふみは、遠くから走ってきた。
長い道、走っても走っても、まだ近づかない。
ふみ、ちっともかまやしない、腕を大きく回し、楽しそうに頭も揺らしながら、ただひたすらに、わたしに向かって走る。
雲間の僅かな夕焼けに照らされるわが子を眺め、
胸が熱くなる。