観音さま

今日も秋日和

今朝、洗濯物を干したり、片付けたりしてる時、ふみは今日の分の宿題を完成。

ふみが宿題をすることに対して、さほど褒めることをしていない。

それでふみは、自分はすごいことをやってるんだなって思っていなくて、毎日歯を磨かないとダメだと同じで、普通に黙々と宿題をする。

ずっとこの調子を続ければと願うばかり。


今日は、続けて江戸三十三観音のお参りをすることに。

前回、一日三カ所を回ったら、もう一日一ヶ所だけだと物足りないというか。

案内の本を見て、何ヶ所かをチェックして、まず泉岳寺駅へ向かった。


寒くなく、暑くもなく、曇ってて、お参りの最高の季節だわ。


地図の解読力が非常に低いわたしは、道を迷うのはいつものこと。
けど今日行こうとするお寺は、駅から降りたら、なんとすぐわかった。

いや〜、信じられない。こんなラクの時もあるんだね、と思ってそのお寺に入ったら、蚊しかいなくて、いくらベルを押しても、だれも出て来てくれなくて、

仕方なく、本に書いてる電話番号に掛けてみることに。


固定電話だが、すぐ転送されて、携帯にでしょうか、けどそれも出て来る人がいなくて、しばらく鳴ったら、「近くにいないため、しばらくしたらまたかけ直してください」とのナレーションが。


へぇ〜〜〜、こんなの初めて。お札所になってるお寺が、日曜に留守なんて、蚊を払いながら、ふみと乱雑としてる墓地を通り抜けて出て来た。

「不思議なことあるもんですね」とふみが。
それを聞いて、笑ってしまった、「こんなにスムーズに辿り着くなんて、あやしいと思ったよ。やっぱり少し苦労しないと、観音さまに会えないのかもね」


めげないめげない。次に行こう。

大通りに沿って、歩く歩く。

ようやく交通違反の車を処理するお巡りさん二人と出会う。
「お仕事中すみません、ちょっとお尋ねしてもよろしいですか」

「あ、ここはね、確かにその前の角から…」お巡りさんは、いつでも頼もしい存在だ。


長〜い坂道をゆっくり登る。

お巡りさんに教えてもらった通り、坂を登りきったところに、そのお寺があった。


結構大きいお寺で、境内に霊柩車やワゴン車が止まって、葬儀のようだ。

寺務所に行ったら、


(@_@;)

へぇ〜〜〜〜、そんな〜〜〜〜

こんなに歩いたのに〜〜


観音堂にお参り下さいだって、その小さな観音堂は、扉に施錠してる、大きいな錠を。

なにも見えない扉と錠に向かって、さすがお参りする気はなく、撤退。
あの紙、臨時に書いたように見えないね、これじゃご法事があるたびに、ご朱印が頂けないことね。
次に来る時、事前に電話が必要だわ。


「なんなんですかね」とのわたしのため息に、
「いいよ、別に。でもここはお葬式だからしょうがないけど、さっきのお寺は、なにもないのに、いないのはおかしいね」とふみが。


まったくだ!こうなったら、わたしも意地になってきた。

「ふみ、お腹すいたでしょう。ご飯食べたらもう一ヶ所いこう」
「うん。お腹がすいたぁ」

坂を降りる途中に、施工途中のこの謎の建物に出会う。

なぜかふみは大いに興味を示す。「すごいすごい」の連発。

わたしも頭を中に伸ばしてみると、確かになんだか不思議なアートの空間。


生活している形跡も少しある。

「お〜い、どなたかいますか」
いないようだ。

「あ、ママ、ここなんか書いてるよ」とのふみの声に見て見ると、

へぇ〜、一人でビルを作る男、なるほど。

「ママ見て、これすごいよ。ベットボトルみたい、でも違うよ」

「これ、一人で作ってるんだって」
「すごいね。僕も一人でこんなおうちを作れるかな」


バッグからボールペンと紙をだして、垣の上に置き手紙を書くことに。

「このさきのお寺へお参りに行く、通りかかったものです。5歳の息子と感心しております。この建物はとても面白く思いまして。世の中またこんな浮世離れの方がいることに、ほっといたしました。頑張ってください」と。

「名前書いて、名前も書いて」とふみが。

「名前はいいよ」日付だけ書いて、紙を中に投げ出して、ひらひらと、紙はコンクリートの床に落ち、でも裏返しになって。
気付けばいいな。

とにかく、頑張ってほしい。


大通りに戻って、
「あ、東京タワー」とのふみの指先を見ていくと、ほんとうだ、前方、東京タワーではありませんか。


ということは、ずいぶん歩いたってことね。


「ママ、ママ、10月になったよね。10月分のマック、まだ食べてないよね。食べよう」
すれ違う少年の自転車カゴに、マグドナルドの紙袋。パンパンに何かが入ってた。


東京タワーを向かって歩きながら、マグドナルドは見当たらない。自転車だったから、もっと遠いところかもね。


12時すぎたし、ちゃんとした中国料理店に入った。

ピアノと中国楽器の二胡、楊琴の生演奏もある高級レストランだが、ランチタイムなので、一般的なランチの値段。

わたしは麺を、ふみは酢豚セットを。


近距離の演奏に、ふみも耳を済ませて聞いてる様子。


「さよならの夏」、「蘇州夜曲」などの知ってる曲で、ふみは喜んでた。


「ふみ、食べるなら、いいものを食べる。保存料や色素や防腐剤や調味料ばかりの安っぽいものは、食べたり飲んだりするんじゃない、それならおにぎりのほうがよほどいい。自分を粗末にしちゃいけないから」
日頃ふみにこう言っている。


「店の環境がよいかどうかも大事、粗末な場所なら、塩おにぎりをかじるほうがずっとまし」

極端かもしれませんが、そう思ってる。


小さい子がいるからか、演奏の三人が少し打ち合わせしてから、「ポニョ」を演奏してくれた。


演奏が終ってから、ふみと小さく拍手と会釈を送った。
「ありがとうございます。」と二胡の青年と会釈してくれた。


すました顔でお食事をするふみ。


珍しく「お水」と言わず、温かいお茶を頂く。

さっきまで演奏した三人は、あっという間に、お料理を運んだり、お客様を案内したりしてる!
「楽器の演奏なんて、たいしたことないよ」みたいな、なんというかっこよさ!



さあー、東京タワーを目指そう。

大きく見えていても、なかなかたどり着かないわ。


慶応大學。校舎も立派。



紫禁城総本店?東北四川料理?おいおい



「あ、東京タワーの先っぽが曲がってる!」とふみが。


本当だ。


3月の震災のあと、話しは聞いてたけどね。


連休の日曜日の東京タワー、入場だけでも大丈行列。

歩いてる人、はとバス、車、普通のバス、大混雑。


裏からグルリと回って、正面に着いて、本に書いてる通り、行きたいお寺は、東京タワーの真向かいだった。


玄関に貼ってあった紙に書いてる通り、置いてある小さい撞木で、小さい鐘を鳴らすと、とても品のいい年配のご婦人が出てきた。


震災で本堂は工事中のため、観音さまは今は座敷に移してあって、案内された座敷で、ふみとお参り。

わ〜、こんなに近くて観音さまのお参りできるなんて、嬉しくてしばらく手を合わせて、動かなかった。


「ちょうど和尚さまが居られて、ご朱印を書いて下さった」年配のご婦人また現れ、わたしたちの朱印帳を渡して下さって。


「よかった〜、実はさっき二ヶ所回って、二ヶ所ともご朱印を頂けなかったんです」とわたしが言って、

「あら、それはたいへんでしたね。お参りの方って、遠くからいらしたとか、時間のない方とか、せっかくいらしたのに、ご朱印を頂けないなら、それはお気の毒ですね」とご婦人が。


「でも楽しかったよ」とふみが。


「あそう〜、えらいね、ぼく。おいくつ?5歳?あら、大きいね〜」

「うん。でもぼくはパパママよりまだ小さいよ」


「本当だ、あははは。でもこうやってママとお参りするなんて、本当におりこうね」


「はい」とふみは言いながら、撞木を持って、棚の上の小さいお地蔵さまの頭を「こ〜ん」と鳴らす。


お利口と褒められたばかりというのに。


しかしここは、ほんとうに東京タワーの真下だね。

ご親切な対応に励まされ、もう一ヶ所行こうと決める。

路面電車に乗りたいとのふみの要望によって、

東京タワーから御成門駅に向かって歩く。

途中、港区の祭りがあって、たくさん屋台が出ていて、あの数えきれない店を回って見たいとのふみの提案だったが、断念するまで説得。


そこから三田線に乗って巣鴨まで。JRに乗り換えるために駅を出たら、
駅前の広場で、よさこい祭りをやっていて、都内や新潟などのチームが、鮮やかな服装で「ソイヤソイヤ」と踊ってる。


ふみを、何のためか知らない一本低い柱の上に立たせて、ふみはやっとよさこいが見えるようになった。

柱の面積が狭く、わたしはきつくふみの足の抱き締める。


一曲終わり、ふみをなんとか下ろして、すると隣にいるおじさんが、「さっきからずっと見てたけど、あなたのほうがよっぽど危なかったよ」と、そのおじさんはわたしの横を指差す。


薄い板の看板の尖ってる角が、わたしのこめかみあたりとスレスレにある。


ぎゃ〜。


「危ないよ、気づいてないみたいで」


はい。ふみを支えるのに必死で。


JRに乗って大塚まで、ここの広場もイベントが。

よさこいの合間らしく、一人の女性歌手が立っている。「私は京都からきました、京子、京都の京と、子供の子」と自己紹介して、それからベンチに座ってるおじいさまおばあさまたちに向かって、“時の流れに身を任せ”と歌い、「♪今はあなたしか愛せない〜」なかなかの歌唱力だ。



暑くなって、ふみの下着のランニングシャツはすでに脱がせていたが、やっぱりうっすら汗かいてる。


生ジュースのお店て、ふみはシークヮーサー、わたしはミックスジュースを。


路面電車の都電、よさこい祭りのため、だいぶ遅れが出ている。


来た来た。



混んでる車内をずっと立って、やっと「学習院下」駅に着いた。


歩いて、歩いて、目的地にたどり着いた。


朱印帳をお預けして、本堂はご法事中のため、お不動さまのところでお参りを。

途中、この牌に気を引かれて。


へぇ〜、なかなか面白い。

「あ、みざる、きかざる、いわざるだ」と、ふみは牌の下の方を指差す。

わたしが以前教えた言葉、ちゃんと覚えてるんだ。


「この猿さんたち、人間のやったことを、神様に告げないようにしてるんだって」

「ママ、お金、早く」

一円を渡したら、ふみは猿の足元に置いて、もう一円渡したら、もう一匹の猿の足元に、

「もうないの?きかざるさん、ごめんね、ご飯を買えなくて」とふみが。


財布を探したら、もう一円あった。

(^_^)


ふみ、安心したかい?だいじょうぶってば、ふみはおりこうなんだから、
猿さんが見て、聞いて、言っても、だいじょうぶなんだよ〜、本当にいい子だもん。


「ママ、これは誰?」

「お大師さまだね」

「お大師さま?知ってる知ってる、パパから聞いた。おっ、お大師さま、こんにちは」


お友だちじゃないんだから。


お寺をあとにして、バッグの携帯の万歩計を見てみたら、一万歩を超えた。


「今日は引き分けだね」とふみが。

「引き分け?」

「うん。四ヶ所行ったでしょう?ご朱印、二個もらって、二個もらってないから」


そうかそうか。
なんかまた意地になってきた。

「ふみ、もう一ヶ所どう?」


「えぇ〜〜」

「都電乗って戻る?それとも、このまま乗って終点に行けば、もう一ヶ所行く?もう一ヶ所行ったほうがいいよ、ね?せっかく都電まで来たんだから…」


というわけで、早稲田に着いた。


歩いて歩いて、確かにこの辺だもんね、なかなか見当たらない。日が少し暮れてきたわ。


交番だ。

行きたいお寺を尋ねたら、「えっと、隣りだけど」とお巡りさんは笑う。
(-^〇^-)


ここは、ちゃんと受付があって、お坊さんがご朱印を書いてる間、

受付の女性がふみに、仏さまへのお供物の下がりと言って、何種類かのお菓子を袋に入れて、下さった。


大喜びのふみ。疲れも飛んでしまって、境内ではしゃぐ。そもそも疲れてない?

「ママ、食べていい?いいでしょう。せっかくぼくにくれたんだから」

「いいよ。こういうお菓子、ご利益があるからね」


帰りの駅で、長いエスカレーターの乗っていて、前のふみの頭のてっぺんのにおいをかぐわたしに、
「どう?匂わないでしょう?いい薫り?だってぼくあの中の飴を食べたんだよ。ママ、今日のお菓子、捨てちゃダメよ、あれは薬だから」。


吹き出してしまった。


“ご利益”との言葉、ふみには“薬”と理解してるんだ。


「ふみ、行くとこ行くとこ、みんなふみのことを、おりこうねと褒めるね」

「うん。それがなにが」

いや、べつに。


今日、一万六千歩あまり歩きました。