小春日和

ふみが植えた葱。なにかの飲料水に付いてた景品の種だった。

ミニ植木鉢だからかな、葱もミニサイズ、でもちゃんと葱だとわかるね。


今日は第五週目のため、スイミングは無し。朝、ふみとインフルエンザの予防接種に出かける。

「ああ〜、落ち着け。ははは、だいじょうぶだ。うん。だいじょうぶ。落ち着け、落ち着け」と、歩いてるふみはこう言う。

ニヤニヤしてるから、冗談っぽくに見えるけど、半分は本気。
注射が苦手なんだ。

「でも予防接種しないと、インフルエンザにかかったらもっとたいへん?そうだね?」ふみは朝から何回もこう確認してくる。自分を説得してるに違いない。


かかりつけの小児科に行き、わたしは隣りの部屋の内科で受ける。

「鼻声だね、風邪?だいじょうぶかな」先生は年中大きいマスクを付けて、
「違うんです。風邪じゃなくて、アレルギー…」
「アレルギー起こしたの?!もっとダメじゃない、予防接種はね…」
「違うんです、違うんです。アレルギーじゃなくて、ホコリが…」
「ホコリが?あ、ごめんなさいね。掃除してないかな、あれ?…」
「違うんです、違うんです。うち。乾燥してるので、洋服タンスを開けて、その繊維かなにかで、それでクシャミが止まらなくて…」

困るね。いつも。だから洗濯の洗剤も全部液体タイプにして、ちょっとした粉が舞い上がったら、もうクシャミが止まらないから。


「ワクチンなんですけど、生産上の関係で、子どもたちには防腐剤の入ってないヤツを使ってるけど、大人のは、できるだけ防腐剤が入ってるのを使ってもらいたいです。僕たちもそれを使ってるから、問題ないです。ご協力いただけますか」先生の眼差しが真剣になり。

「ええ、もちろん」



ふみは小児科の部屋に入ったら、リラックスの感じ。本当かどうか。

「あれ?先生。ここの磁石は?足りないね、誰か食べた?」とふみが。
小児科の壁に、いつもいろいろの楽しい磁石がくっ付けてある。ふみの話しを聞いて壁を見て見たら、たしかにちょっと少なくなった気がして。

「食べたって、誰よ、私?」と先生は笑う。


「そうじゃなくて、見てない時、赤ちゃんが口に入れて食べたのかなって」とふみが。


準備万端の注射器を見ると、
「ちょっと待って、ちょっと待って」とふみは腕を組む。

「待つけど。どれぐらい?開封したらそう長く待てないよ。ね、早くやったほうがいいよ、待ったらどんどんしたくなくなるから」


腕を組んでるふみ、何か決心したみたいで、
「よしっ、いいよ」と腕を出してくれて。

一回目のインフルエンザの予防接種完了。二週間後に二回目を。



ゆっくり散歩して駅へ向かう。

寒くなったね。晩秋らしく。陽ざしのないところは、ひんやりというより、ほんとうに寒い。薄着のせいもあるのかな。
秋は、薄着の時間をできるだけ伸ばすのが、体のためだ。漢方の理論だけど。


ふみの水筒、だんだん蓋の閉まりが悪くなって、この前、洩れてしまって。
今日は水筒を買いに。

その水筒は、何とかジャーのキャラクターの。高いわりに、プラスチック製で、変形しやすい。だからなんとかジャーたちの商品が大嫌いなの。


「ふみ、今日はステンレスの買うのよ。レンジャーとか、セイジャーとか、買わないからね」
「違うよ、ゴー、カイー、ジャー。セイジャーとかもう古いよ」

何でもいいよ、とにかく、ジャーはダメ。


下りの電車を待つ。
「座れればいいな」とつぶやいたら、
「ギュウギュウよ、絶対、立つしかないよ」とふみが。

(^◇^)電車中でいつも一番座りたがるのだあれだ?


15分電車乗って、スカイツリーが見えるところの駅で降りて、駅前のビルの中の子供コーナーで水筒を見る。


キャラクターが一切入ってないの買いたかったけど、なんと、ないの。とにかく何かは描いてる。


しょうがないから、ステレンス製のポケモンの買った。(とにかく“ジャー”はダメ)


ビルの二階にマクドナルドが入ってる。
食べたいとふみは言いだして。
「10月分はもう食べたじゃない」
「ええ〜、だって、もうすぐ11月だもん。11月分の」
「そんな。一日は一日よ、簡単に変わったら、決まりは意味ないじゃない」


イタリアンにした。


細かく刻まれたいろんな種類のキノコ、それとチーズのピッツァ。

「おいしい、マックよりいいや」ふみは美味しそうに食べる。


誰もいない屋上に上がると、秋晴れの中、スカイツリーの全貌が…


しばらくふみとスカイツリーを眺める。

しかしスカイツリーに上がって見たいとの気持ちが、まったく湧かないのはなぜでしょう。東京タワーと違って。

どこかで眺めていれば、それでいい。



バッグのコーナーでいろんなバッグを手に取って見る、
お洋服のコーナーでいろんなお洋服を手に取って当てて見る、

「ママって、水玉が好きだね」

?、あ、本当だ。視線が奪われるのは、ほとんど水玉模様。
たしかに。水玉が好き、持ってるお洋服も水玉模様のが多い。でも大きい水玉は苦手だけどね。


帰りの道、だいぶ暖かくなり、ふみと歩きながら、お友達の話しになって。

ふみの仲良しの男の子H君、ふみ以外、遊び相手は全部女の子。
「面白いね」
「うん。H君、女の子好きだから」
「ははは、じゃ、ふみは?何好き?」
「ぼくは…、生き物好きかな、うん、そんな感じ」
「あらま、ふみはまだまだ花より団子だもんね」
「うん、そうそう、団子がいい」


団子がいいかー。


「じゃ、ふみの組で、誰が一番人気?」
「女の子?」
「うん、女の子」
「Hちゃんかな」
「え?Sちゃんじゃないの?」Sちゃんはふみの永遠の憧れなのに。
「Sちゃんは…、いいけど、つまんない。だって、リンゴとかしか作るのしないし。Hちゃんは面白いよ」

Hちゃんが面白いか。でしょうね。だって前、表情も仕草もサマになって、「お兄ちゃん〜」とドアの向こうに向かって叫ぶもん。たしかに面白いや。

Hちゃんは、端麗な顔のSちゃんと全然違うが、とっても頭がよくて、小さい頃から、ひらがななど、らくらく読めて書ける子。


「ふみはえらいよ、人の面白さを大事に思うのは、それはえらい」本当にそう思う。


面白く暮らしていける人は、どんなに救いになるか、大きくなるふみは、もっとわかって来るのでしょう。


「あ、ダレンちゃん」ふみは走って行く。
近所のワンコ、しばらく見てないから、嬉しくてわたしも走る。

「あれ?違う。ダレンちゃんじゃないわ」そっくりだけど、ダレンちゃんより一回り小さいじゃない、背中もまだ黒くなってなくて、まだ子供だね。


「これは、ダレンちゃんの子じゃない?そうよ、きっとそうよ。ダレンちゃんこどもを産んだんだね」


「ああ」ふみも納得。「ねね、名前なんて言うの?」ふみはワンコの頭を撫でる。

ダレンちゃんと同じおとなしく賢い顔するワンコは、ベロをだしただけ、

「ああ、ママ、この子は、ハッハと言うよ」

「え?」

「名前なんて言うの?ほら、ハッハと言ってるのでしょう。あ、今、頷いた。ハッハだ、間違いない」


吹き出してしまったわたし。


「あ、今フーフーも言った。わかったわかった。名前はハッハフーフーだね、面白い名前だね」とふみ。



ふみ、あなたも面白いわ。