生暖かい
午前に早く出掛けて、渋谷駅まで電車で行って、それからバスに乗り換え、
麻布まで行って、麻布にある観音さまのお参り。三十三観音のお札所めぐり。
こんなにスムーズにたどり着き、しかもご朱印も頂けたのは、初めてなのかもしれない。
境内は広く、僧侶たちも親切、観音さまは、それもまた珍しく大きい。さすが麻布大観音という。
ご朱印を書いてもらってる間、本堂にもお参り、
「これも観音さま?」
「ご本尊は、確かお釈迦様じゃないかしらね、ここは曹洞宗だから」
「あなたは誰ですか?お釈迦様ですか?僕はふみだよ」
広い本堂で、ふみは仏像に問いかける。
受付に戻る途中、お庭に無造作に置かれている石に、ふみもわたしも惹かれる。
緑色の、何か宝石の原石のような。
ふみはその大きい石を持ち上げて、裏もみて。また元に戻した。
「ねね、あの庭の石、あれはなに?」
若い僧侶、すぐわかったように笑う。
もう一人僧侶が「なに?」と尋ねる。
「あれよ、あの石、××さんがここから外に持って置いたのよ」
「それまでどこにあったの?」
「だからここよ」
「ね、あの石、誰が作ったの?」と、勝手に椅子に座ったふみ。
「あれね、作ったんじゃなくて、最初からそうなってる、拾ってきたの」若い僧侶が言う。
「あのね、その石、そんなにきれい?」
「ええ、きれいですね」とわたしが。
「そうですか、へぇー、じゃ、これあげるよ」と、もう一人の僧侶が、ふみに熊さんの小さい瓶を下さって「シャボン玉よ」と。
「え?!いいの?ありがとう」ふみは大喜び。
お礼を言って、ふみはもうそのシャボン玉をやりたいと、
ダメよ、境内ですもの。
落ち着いてる広々の境内、木の葉っぱはちらほらと紅葉している。
午後はふみのスイミング。
4時半に出てきた時、すでにちょっと暮れていた。曇りだからかもしれないが。
しかし生暖かいこと。まるで梅雨が明けようとする時季のよう。
けれど、わたしの脳裏には、75年前の2月のあの大雪が、ずっと舞う。