霧雨
雨との予報だが、霧のような、煙のような、時折小雨、という一日だった。
そんな中、ふみと三軒茶屋まで行って、それからバスに乗って、世田谷観音へ向かう。
三軒茶屋は初めて行く。
以前、好きだった連続ドラマ《スイカ》は三軒茶屋を舞台をした物語だったから、いつか行ってみたいと思っていたが、
けど三茶は、なんだかごぢゃごぢゃして、薄汚くて、学生の町という感じとしか。
バスが、しばらく走ったら、世田谷観音に着いた。
観音堂の観音さまは、とっても立派な顔している。しっかりと拝んで、
寺務所でご朱印を頂く。
明るく元気そうなお坊さんが出てきて、
「おっ、福くんに似てるね」と、ふみを見た途端、そう声をかける。
福くんか、久しぶりに言われたね。
「こんにちは」ふみも元気よくご挨拶。
「おぉ、えらいね。ご挨拶もちゃんとできて。しかしこうやってママと観音様を回って、えらいな。お寺が好きなの?」
「別にそういうわけじゃないけど。ママが、行こうよって言うから」
「はははは、正直でいいね」
べつにそういうわけでもないか。ま、そうだろうね。でも、言われて、ちゃんとついて来て、観音様を20箇所以上お参りをしてきて、ふみはやっぱりえらいわ。
ふみ、いつか大きくなったら、あんな小さい時、ママと観音様を三十三箇所のお札所を巡って、ご朱印を頂いて、本当によかったって、心から思う日が来るよ、きっと。
あとは、小さい時から、甘いお菓子や、添加物のたくさん入ってる食品を制限してくれて、本当によかったって、心から思うよ、きっと。
それからバスに乗って、さらに20分、目黒の大鳥神社前で降りて、目黒不動尊へ行く。そこの観音様もお札所になってるから。
目黒不動尊のある場所へ曲がったところに、寄生虫館というのがあった。
見かけた途端、わたしは咄嗟に「いやだ。入らないよ、気持ち悪い」と口にした。
ふみは見たい見たいの連発。
「気持ち悪いのよ、動物や人様のお腹に入ってる回虫とか、すっごい嫌だ、ふみ見たいの?」
「ええ〜どうしよう、やめようかな」
「え?こんな簡単にやめるの?なさけない。ママが見たくないと言ったら、ふみも見たくなくなったの?あんなに見たがってるのに?すぐあきらめるね」
というわけで、ふみと中に入った。
思った通り、魚や、動物や、人間の寄生虫が、薬液に浸けられ、瓶の中にいる。
「ええー、すっごい」と興奮するふみ。
少しずつ固まるわたし。
「ママ、二階もあるよ、二階行こう」
は、はい。
「ママ読んで、これ、なに書いてるの?」
「だから人間のお腹の中の回虫…」
「こんなクネクネ?こんなに長い?」
真っ白な、平べったい物体が、大きい瓶の中で、静かに展示されてる。
全長8メートル余り…。
長さを実感頂くために、そばに同じような8メートル余りの白い紐が用意してる。
「ママ、伸ばして見ようよ」
勘弁して〜〜〜
回りの瓶や写真を見ないように、固まりながら、わたしは階段ところの窓際まで撤退。
「ふみ、ゆっくりみてて、ここで待ってるから」
「なんで?ここに書いてるものを読んでよ、こっち」
いや、あの、はい、いいんだ。ゆっくり、はい。待ってるから。
「ママって本当に怖がりなんだから。ちょうおもしろいよ」ぶつぶつとふみは言いながら、去った。
リュックをしょってる西洋人が、不思議そうにわたしを見る。
は〜い、でも、別に、発熱中でも、なんでも、ないよ。ただ固まっちゃっただけ。ええ。
棒のように固まったわたしは、頑張って微笑みを返す。
目黒不動尊に向かう。
「ふみ、見たでしょう。手をちゃんと洗わないとか、指を舐めたりすると、お腹にあんな虫ができちゃうよ」外にでると、蘇ったわたしが言う。
「めっちゃ面白かった、あのぐねぐね…」
まったく教育になってなかったようだ。
三十三観音、残りはあと五箇所。
お昼は、ふみとファミレスでカレーを、一口20回と一緒に大げさに噛んでた。
ちなみに食べたのは、寄生虫館に入る前だった。よかった。