12級

保育園から戻って来たふみの絵をしばらく眺めて、何を描いたの、やっぱり見当つけないや。


本人に聞くしかないわ。

「どれ?これ?これは…、あ、ハムスターだよ」
「はっ?」、どこが…。
「ハムスターなんか、ぼく描けないんだもん。先生が描いてって言うから」

ふみたちのお部屋に、ハムスターがいる。
「この真ん中のがそうなの。回りは、ハムスターの遊ぶもの」

だそうだ。


ハムスターより、ヒラメかなにかに似てない?


朝食後、パパはお仕事に出て、ふみは宿題を始める。

4回の英語無料体験して、「英語はおもしろい!」とのことで、塾で、国語・算数以外、英語もやることに。

笑いながら、英語の単語を復唱し、英語の歌を聞くふみは、楽しそう。
楽しいのは何よりだ。


ただ宿題の時間は以前より増えた。
けどふみは、こんなもんだと思っているらくし、別に文句もない。
宿題たちは遊びの一部に過ぎないみたい。



宿題をして、ふみとお歳暮を買いに新宿へ出かける。
もうお歳暮の季節か、師走まで、もう残り一週間もないもんね。


お歳暮を選ぶと、「え〜〜、いいな、うちにも買ってよ、買って帰って、ね、いいでしょう?」とふみは一々おねだり。


12月に発送の手配をして、うちに戻って、その足スイミングスクールへ。
今日は進級テストの日なんだ。


昼間になると、だいぶ暖かい。
「暑い」とふみはベストを脱いでわたしに渡し、走り出す。


着いた時、まだ少し早い。
前の時間帯のテストは真最中。親たちびっしりと席を埋める。
ガラスの向こうのプールを見て見ると、時間を計る先生、成績をメモする先生、「はい、はい、はい」と手を叩いて、水中の生徒に向かって拍子を取る先生。
やっぱりテストはいつもと違う雰囲気だわ。


ふみは?と振り向いたら、廊下に…

「なにしてるの?」
「え?」ふみは姿勢を変えずわたしを見て、しばらくして笑いだした。
起き上がったふみに、「余裕だね」と言ったら。
ふたたび笑うふみ。



テスト、無事に合格して、ふみは12級に進級。


「おめでとう」
「でも、ぼく進級できると思ってなかったよ。あんな泳ぎって、いいの?」

あんなって、充分よ。ママが見ててわかるよ、背泳ぎ、姿勢といい、スピートといい、立派よ。「いいんじゃないの?でないと合格くれないでしょう」

「ま、そうだね。でもぼく、今日は無理だと思った」


なるほど。じゃ、廊下でのくつろぎは、余裕ではなく、あきらめだったのかしら。


とにかく、おめでとう。


4時過ぎというのに、もう薄暗くなってきたね。


「ママ、携帯携帯、早く」
ワンセグを立ち上げ、ふみは歩きながら、大相撲中継を食いつくように見る。

危ないわよ。

それより早く歩いてうちに帰ってからみればいいのに。


「あ、今日は酉の市だ!」ふみは携帯をわたしに手に突っ込んで、走り出す。


坂道の両側に、提灯が。

「♪咲いた咲いた、提灯の花、咲いた咲いた、暖かく…」
この前の川中美幸の歌を思い出す。


境内にたくさんの人がいた。


「ママ、バナナチョコが食べたい、ね、いいでしょう?ぼくまだ食べたことがないから」
う…ん、いいわ。合格したしね。