白蓮

今日は日射しがなく、冷えきった一日だった。


夕方ふみをお迎えに行って、保育園を出ようとした時、ふみのズボンの膝あたりに、大きい穴が開いてるのに気づき、びっくり。

ふみに聞いたら、
「え?どこ?あ、本当だ、へへへ」ふみは笑う。


「どこで?公園?」

「今日は屋上」

「屋上?」

「うん。でも放射線も大丈夫だって、通常に戻ったって」


「ふみが聞いたの?」


「聞いたよ、F先生が大丈夫になったって言って、みんな“やったー”って言って一緒に行ったの」


屋上は、暮れに、やや高い放射線量が検出され、園側が除染したりしたそうで。


「それはよかった。でもその穴、転んだの?痛くなかったの?」

「う…ん、わからなかった」


どうしましょう、これから塾と言うのに、うちに戻る時間もないし、「そうだ、ふみ、保育園に置きっぱなしの着替え、あるでしょう?ズボンを取り替えよう」

「いいのいいの」

「このまま塾に行くっていうの?やめてよ〜」


「じゃ、ママが縫って、ここで」

ママはそんな裁縫道具を持ち歩くような良妻賢母じゃないのよ。


「やっぱり、このまま塾に行く。いいの」


えぇ〜

「じゃ、人に聞かれたら、保育園で破れて、保育園から直接、来たって言ってよ、うちからそのズボンで来たと思われたら、ママ恥ずかしいから」


「はいはい」


こういう身だしなみ、気になってしょうがないわ。ふみは全然平気みたい。


ふみにおやつと飲みものを買って。ここのところ塾は遅くなったりするから。

飲みものはホットレモンにした。


大事そうに飲んで、「これ、飲みきれないから、塾まで持っていく」


「いいの?教室で飲むの、言われない?」

「うん、大丈夫」と言って、ふみは教室のドアの外で、急いでそのペットボトルをカバンに入れて、抱えるように、こそこそとドアを開けた。


大丈夫だって言ったの誰かしら。


ふみは、今度から引き算を始めるって。


足し算は、かなりのスピードでほぼ間違いなくこなしてるからかな。

国語も、ひらがなからカタカナへ、今は漢字もと、順調に進んでる。


英語は、楽しそうに単語をいっぱい覚えるようになって。

これらは、たぶん公立小学校の二年生ぐらいの内容だと思われる。




当初、塾に入れるのは、
いきなり小学校に入るふみ、じーっと座れるかどうかとのことに対して、親として自信がなくて、

お勉強はどういうものか、じーっと座ることはどういうことか、入学してから味あわせるのは、自信がなかった。


もしそれができないふみなら、小学校に馴染めないことで、勉強まで嫌いになったらどうしましょう、という考えだった。


塾に入ったばかりの頃、直線すらうまく書けないふみだったが、
順調に勉強を続けて、今や塾に通うことと宿題をやることは、もう生活の中に欠かせない、当たり前の日課になってるんだ。


けど、4月に小学校に入ったら、算数は1、2、3や、ひらがなのあいうえおから教えるから、ふみ、授業に集中して、(面白いな授業は)と思うことができるんでしょうか。


その時、授業中の先生に向かって、
「わかってるよ」とか、「それは知ってるよ、当たり前よ」と言ったりしないかしら。


たとえ知ってる内容でも、教室の中で静かさを保ち、みんなと一緒に、先生の授業を聞くこと、ふみにはできるのかしら。


また先生と変な関係になったりして…。


なんだかね〜



寒さの中、白蓮のに、小さなつぼみが。

嬉しいな、こういうの見ると。


「なにを見ていますか?」振り向くと、
白蓮の木を仰ぎ見るわたしに、同じ保育園のY君のお母さんが声をかけてくれた。

このYさんは、妹さんと同じく丸い目してる美人。

運動会で妹さんを初めて見て、昭和初期の女優を連想させる。


Y君はふみより2歳下のいつもニコニコしてる子。


「白蓮を見ています。つぼみが」

「あら、本当ね。いいね、春の知らせと言うか」


春の知らせ、まことだ。


この寒さを乗り越えたら。