くも

今日も穏やかな日差しが。


夕方ふみをお迎えに行って、まだ先生のお話し中で、Yちゃんのお母さんと一緒に廊下で待つことに。

「この前のケーキ、すごくおいしかったです、よく作りましたね」
「あぉ、あれは、あーん、あのアメリカのものが売ってるお店、知ってます?そこで買ったの」
(え?買ったの?作ったのとみんなで感心してたのに。アメリカのお店、だからあんなアメリカンサイズ?)
「あぉ、あのお店、材料、なんでもある。今度メールする」
(材料?じゃ、材料を買って、作ったんでしょうね。そうよ、そうあってほしい。だって、手作りでみんな騒いでたもん)


「ステキですね。子供の誕生日にあんな大きくておいしいケーキを用意するお母さんは」

「あははは。娘の誕生日。11歳。Yのお姉さん、私、フィリピンから連れて来た娘。私の娘、生れる前、パパが死んで」とYちゃんのママは手で首を切る仕草をする。

(えっ?自ら?被害?どっちにしてもちょっと衝撃的)

「私、まだ18歳、でも仕方ない、私は子供を守る。日本に来た、千葉に来た。今のパパと結婚した。今、私は三人の子供を守る。それだけ。この前の地震、びっっっくり。初めて。でも、パパが仕事、いない。私は怖い、でも、子どもいる、子どもを守る。それだけ。あぉ、はははは」


オシャレな毛糸の帽子をかぶり、きれいな顔立ち、最近のYちゃんのママ、ダイエットして、本当にきれい。


ふみがこの前「Yちゃんのママ痩せたね」と。

ひゃ〜、子供って、よ〜く見てますね。


部屋のドアが開き、F先生が出て来た。

「あの、ふみ君のママ」F先生の眼球が赤い。これはヤバイ、また苦情に違いない。

「はい」
「あの、お家では、ご飯の時、椅子座りませんか?」
(いいえ、立ち食い式がほとんど、と答えたら、この話しを早く終わらせてくれるかしら)「椅子ですが…」
「そうですか。でもふみ君、どうも椅子になれないみたいで、ご飯の時にちゃんと座らないです」
「すみませ〜ん」(保育園の椅子が小さいから、窮屈じゃない?うちではふみは高い椅子に高いテーブルで、大人のと同じだから)
「あとは、食べ方なんですけど、今日、おりんごを、むりやりにフォークで切ろうと、リンゴが飛んで…」


保育園をあとにして、ふみと塾へ向かう道で、「なんでそんな顔をするの?」とふみ。


顔?暗いかな。あきれた顔をしてるのでしょうね。

「ふみ、ちゃんと食べて、マナーを守って、じゃないとママがなにも教えてないと思われてるから。困る。もう、ママはもう疲れた」


ふみ、わたしの手を離れて、前の方を歩く。背中からショボンとなるふみ、めったにない。


やっぱり、ちょっと頭にきた。F先生、悪いけど、いつもいつも、うるさい。


「ふみ、誰が何を言おうとも、ママにはふみが一番大事だからね」
「うん!」ふみは笑った。「ママ、カバンに野菜ジュースあるよ。さっき見えた。のど渇いた」

何の話しよ。

確かに野菜ジュースは、ふみに買ってあげたのだから、出して、渡す。


「F先生、なんか、面倒くさいね」
「うん!」


F先生、ふみとバトルがあった時、必ず真っ赤な眼球で、先にわたしに報告。
先に子供に言われたら不利と思ってるのかしら。

けど、ふみは、そういう告げ口、しない子なんだ。しつこく聞かない限り、自分から、今日はF先生にこう言われたとか、こう叱られたとか、言ったことがない。

F先生には理解できないことでしょうけど。



仰ぎ見れば、あっ!この雲!

いわし雲でもないとはわかる。いわし雲は穏やかだが、この雲は早く流れてる。


かつて地震研究会のような会に入ってたYさんに写メを送る。


Yさん、ご丁寧に携帯に電話をかけて来て、
写真を見る限り、僕はその雲が光ってるように見えないね。地震雲はまず光って見えるんだよ、磁場の関係で。
と。


そうですか。

「では、これはいかがでしょう」あきらめが悪いわたしは、もう一枚を送る。夕方の西の空。


Yさんからご丁寧な返事が来て。
「そうですね。飛行機雲ではないし、ヘリコプター雲?時間が経つと、さっきの雲のようになるかもしれないと思います。いずれにせよ、一般に地震雲は直線的で、輝きを帯びているように思います」


さようでございますか。輝きかー


ドラッグストアに入る。


「♪毎月一回のサービスデー、毎月…」との、単調なメロディーの歌(?)が、凄まじいボリュームで流れてる。


しかも、いかにも素人の、疲れ切った枯れた声で。

これはなにかの作戦でしょうね。

まるで選挙。きれいな透き通った声じゃ、ダメなんですって。枯れて、声帯に大きいなポリプができて、今にでも血が出そうな声のほうが、印象的、同情的、効果的、票を入れられる的?らしい。


おかげで手に取ったヘアークリームの説明を、何回読もうと努力しても、文字が心に入らない。さっさと買ってしまった。

お店を出て、「へぇ〜、このクリーム、あんずの香りなんだって」と気付く。
同時に「♪毎月一回のサービスデー」と口ずさむ。




うちに着いて、ベランダに出て、おっとー

これはどうじゃ、輝きを帯びているじゃありませんか!
さっそくYさんに三度目の写メを送る。

♪毎月一回のサービスデー〜




2月10日の今日。父の祥月命日。
三人で、お経を上げて、お供物の桜餅を頂く。
桜ね〜、あと一ヶ月あまりね。