小學生に

暖かい、予報だと22度になる今日は、ふみの小学校の始まる日なんです。



6時少し前に、目覚ましが鳴って、設定したラジオも鳴って。

これからは、この時間に起きなくちゃならないのです。

ふみも気持ちよく起きてくれました。


この時間帯の教育テレビは、いつも見てるのと違う内容の番組をやっていて、
ふみは興味津々に。


ただし、これからはもう連続テレビ小説が見れなくなりますね。その時間は、ちょうど登校中ですから。


ご飯を食べて、顔を洗って、歯を磨いて、トイレも済ませて、まだまだ時間の余裕がありました。


パパが、ふみに、ランドセルの使い方や、ランドセルの中に入っているものの確認をしてました。


新入生の下校は早いため、来週の火曜日まで、給食がないんです。

お昼は、お弁当を持って学童で食べます。


お昼に、お弁当を学童に届けに行くと言ったら、ふみは断りました。自分で持つと。


「じゃ、学校が終って、お弁当を忘れないでね。学童まで持って行くのよ」



防災頭巾とお弁当をわたしが持って、ふみはランドセルをしょって、うちを出ました。

振り向くと、パパが後ろで見送りしてました、カメラを手にして、シャッターを押してた。



今日、ふみは人生の大事な一歩を踏み出そうとする日なんですね。


歩いて間も無く、「よっ、ふみ君」、男の子二人が声をかけてきた。

「ぉっ」ふみは小さい声でかろうじて答えて、私の手を繋いで、下を向いた。

「おはよう。同じ小学校?帽子の色が違うね」わたしは男の子たちに微笑む。

「二年生から帽子の色が変わるよ。ランドセルのカバーも要らなくなるから」男の子たちは答える。

同じ保育園の卒園生でもないわ、「ふみ、同じ学童のお友達かしら」と聞くと、

「ぅん」ふみはやはり小さい声で、歩幅も小さく。

「そうよ、学童で一緒に遊んでる」

「そう〜、何年生?」

「三年」とふみが答える。

「ふみ君ー、ぼく、二年だけど」

ふみは、さらに下を向く。「ママ、今日は学童行く?学校終わったらすぐ学童行くよね?学童行く…」


ふみ、緊張してる。初登校は、ただでさえ緊張してるのに、お兄ちゃんたちが話しをかけてくると、余計に。


大通りに出ると、さらにぞろぞろと歩く小学生たちが増えて。

「おはよう」とわたしに挨拶をしてきて、「おはよう」と返事しながら、どこの子でしたっけと思いだそうとするわたし。


サラリーマンもぞろぞろと駅の方から疾走してくる。

この町の朝は、こんな風景なんだ。この時間帯でこの辺を歩いたこと、ないな。


最初の男の子二人、ずっと、わたしたちにくっついてる。
ふみは下を向いたままなので、ほとんどわたしに話しかけてくる。

「ね、聞いて、この防犯ブザー、壊れてるの。」とランドセルに付けてる防犯ブザーを引っ張ると、「べべべべ」となさけない音が。

「でしょう?壊れてるの」

「ほんとうね。困ったね」

「でもだいじょうぶ。ぼくはだいじょうぶ。だって、僕をさらいにくると、ぼくはこう叫ぶから“助けて、このおじさんが僕をさらおうとしてる”」

「なんで、おじさんと決めるのよ」と隣りの男の子が言うと。

「もしおばさんがぼくをさらおうとしたら、“助けて”…」

この調子で話しは延々と続く。


微笑んで聞くわたし。

「ね、これは6年生。見て下さいこのランドセル、もうぼろぼろ」と男の子は傍を通った先輩と思われる男の子の腕を引っ張って、そのしょってるランドセルをわたしに見せる。

6年生は、しょうがなく笑って、「いいから、おまえら」


ふみはわたしの手をしっかりと握り、黙って、歩幅小さく歩く。


今日は暖かいわ。朝なのに、少しもひんやりしてなく。

なのに小学生の中で、冬のコートをはおる子を何人も見かける。

母親はよほど忙しいのかしらね、天気予報を見たりする余裕が。



ふみ、小学校に入った。


玄関で、自分の靴箱のところに行って、上履きに履き替えて、急いで階段に向かう。

「ふみ」防災頭巾とお弁当を渡す。

それを持って、ふみは階段を登って行く。振り向きもせず。


ふみは、小学生になった。今日から、もう小学生に。


学校を後にして、暖かい陽ざしに照らされながら、涙が出て来た…。


ふみ、頑張って。学校はきっと、ふみにとって、楽しくて楽しくて、大好きな場所になるよ。


夕方、学童にふみをお迎えに行って。
「小学校どうだった?今日はなにをした?」
「防犯ブザーの使い方とか。でね、××君が、先生が喋ってる時に引っ張って、うるさくて…、クレヨンで名前も書いたよ。縦の横の…、あ、暑い」

コンビニからお水を買って、それを飲みながら、ふみは塾へ。

その一時間半余りすぎ、わたしの携帯が鳴って、「ママ?ふみ。今終わった、迎えにきてぇ」。ふみからの電話だった。
あの子供用携帯、使い方もとても簡単。


塾から出たふみ、気分よく、ずっと歌ってる。
「♪歩いても 走っても、地球のスピードは同じですぅ〜
 焦っても、のんびりでも、ちゃんと明日は来るんですぅ…」


「ふみ、小学校は楽しい?」
「うん、楽しい、明日また行きた〜い」