でんしょばと

朝、ふみは約束通り、わたしと並んで大通りに向かって歩く。
「おはよう」、R君だ。

「おはよう、誰かを待ってるの?」とわたしは聞くと、

「あ、×君だけど、いつもモタモタして、まだ来ないね。僕、別にふみ君と一緒に行ってもいいけど」とR君はふみと歩く。



R君は2年生だが、体は結構大きい、それに結構お喋り。
「僕のお父さんは神戸出身で、お母さんは台湾らしい、どっちも遠いんだ」とR君は言う。



大通りに出て、同級生の3人と会って、お母さんたちはご挨拶を交し、子供たちは走ってゆく。


「おーい!R!」と、後ろから×君が怒った声が、「待ってるって言ったんだろう」、×君は走り出す。


やれやれ。


4時にふみをお迎えして、
「ママ、今日ぼく給食全部食べたよ。おかずは韓国のなんとかだよ、スープも」
「プルコギでしょう。野菜炒め、よく食べれたね」
「全部食べた。もう保育園の給食がここ」手を膝当たりに、「学校の給食はここ」手は頭を越えるところまで伸ばす。


まっ、うちではお野菜、一口も食べないのに。
とにかく学校は、なにもかもいいんだ。


夕方の柔道、M君がお母さんと見学に来た。


M君は、ふみと小さい時から同じ保育園、今は同じ小学校。組が違うけど、ふみと仲良し。


同じくウルトラマンに詳しい、その音楽まで。


案の定ふみは「Sちゃん!」とM君の下の名前を呼んで、大喜び。


K君のママは、M君のママを見ると、驚いて。

K君のママは、若い時、M君の歌手のママのファンだった。


好きだった歌手が、まさか普通に目の前に、しかもこんな近距離に現れるなんて、
「えっ?B?Bですよね、あ、案外小柄、お化粧もしてないね」とk君ママはひそかに言う。


Bというのは、M君ママの歌手の時代の英語名。実力派らしいが、わたしは知らなかったけど。


M君のママは、わたしの隣りに座り、K君のママは、わたしのこっち側の隣り。


うん、どうだろう、もしわたしの憧れてた歌手が急に目の前に、しかも普通に言葉を交わすようになると、どんな心境だろうなって、勝手に想像したりして。


ふみはM君と、向かい合って、足を踏み出しながら、手も一緒に動き出して、同じ動作をする二人は、ともにニヤニヤ、けど言葉を発していない。
妙な動き、まるでどこかの部族の挨拶のよう。


「なになに」M君のママも聞くが、二人は答えなく、ニヤニヤだけ。








これは学校のPTAからもらったカード。親の携帯アドレスを登録すると、ふみが登校して、入口の機械にそのカードを当てれば、親に、「×時×分に、××さんが登校しました」とのメールが送られ、帰る時には、
また、「×時×分に、××さんは下校しました」とのメールも。
ちなみにこれは無料でもらえる。

今朝の登校のメールを見ると、ふみたち、わりと早く学校に着いた、ずっと走ってたんだ。