振り返ってみれば

昨日、ふみに、勝手に高学年の生徒と一緒に寄り道で登校するのはダメだということを、よくよく言い聞かせて、ふみも納得して約束してくれた。


今朝は、いつもより少し早く大通りに出て、同じく一年生のお友達を待つことにした。そしてお友達4人で一緒に歩いて行き、「登校しました」のお知らせメールは、すぐ携帯に入った。



この何日間、ずっと平年より寒い日が続いて、週明けに雨が上がったら、だいぶ暖かくなるそうで。


江戸三十三観音を廻っていらっしゃる方とたまたまお話しを。

「お寺によって、閉門が早くて、まだ3時4時というのに」
「あ〜、ございますね、そういうお寺は」とわたしが。
「うん。人影が見えてるのに、開けてくれないしね。ま、おもしろいよ」
「そうですね。」
「あとは、工事かなにかをやってて、こっちだ、あっちだって、振り回されて」
「あ、ありますね。面白いです。」
「そう、面白い。面白いというか、ま、面白い」
「いつから、まわってらっしゃるんですか」
「去年の…、去年の11月だね、うん」
「お住まいはどちらですか」
「トカ」
「トカ?」
「都と書いて、下と書いて、都下よ。言わないかね?東京都だけど、23区ではない」
「都下。そうですか。あまり聞かないのかもしれません。」
「そうかね、昔は言うよ。今は言わないのかね。青梅の方」
「そうですか、じゃ、中央線で、また乗り換えて」
「そう。勤めが横浜だったから、ずっと電車で、片道2時間、もう何十年通ってた。うん。」
「観音さまは、何か願い事とか」
「いいえ、願い事はない」
「じゃ、観音さまが特別お好き、とか」
「それもないね」
「へぇ〜」
「うん。なんというのでしょうね。こうやって地下鉄乗ったりするのが、新鮮で、ずっと電車だったからね」
「あと、どんなところいらしたり?」
「えー、山形とか」
「山形?あの山形ですか?」
「あと、どんな山形あります?」
「遠いところですね」
「遠くないよ」
「遠いですよ」
「そうですか?うん、なんというかな、定年して、自分の今までの人生を振り返ってみると、うん、バカだったなって」
「バカ…って」
「うん、バカだった。ただただ働いて働いて、自分は勝手に会社のためだと思って、実際そんなことはない、自分はいてもいなくても、別にどうでもよかった。なのにそれを知らないで、ずっと一生懸命働いて」
「そ…ういうものなのでしょうか」
「そうですよ。今はこうやって地下鉄に乗って、あ、面白いなって」
「そ…うですか」
「そしてね、こういうものも作ってね。これ、シルバーカード、バスを安く乗れる、うちから、乗り換えて乗り換えて、ずっとバス乗ってたら、こんどエコノミー症候群になって、足腰やられて」
「バスは楽しいんですけど、歩くのは、もっと楽しいです、健康にもいいですしね」
「そう。そう思って、歩くようにして、で、今日は…、何歩だ?えっと、見てくれる?」
「あ、歩数計の付いてる携帯電話ですね。わたしもよく利用します。えっと、あ、一万歩越えてます。あれ?なんだかずいぶん極端ですね。例えばこの日、1万3千歩も歩いてらして、その翌日、9歩!9歩って、どういうことでしょうか」
「腰が痛くて動けない日だね」
「ああ〜、ここも同じパターンです。1万超える日の翌日、歩数は一桁になりますね。ということは、1万歩を越えないように、計算して動くことにしないとダメですね」
わたしは、いつの間にか、その方の携帯を持って、初対面と思えないような感じでお話しをして。

「そうかね。じゃ、今日は、もうこれで終わりにしようかな。もう一ヶ所廻ろうかと思ってね」
「やめたほうがいいです、やめたほうがいいです。ほどほどにしないとよくないです」
「うん。もう、帰ろうかな」
「そうしましたら、タイ焼きを買いません?」
「は?」
「タイ焼きです。そこのタイ焼き、都内のタイ焼き御三家の一つですよ。ご存じありませんか?」
「タイ焼き、知りませんね」
「おいしいですよ。しっぽまで餡子が入ってます。よかったらぜひ」
「そうか。では、買って帰ろうかな」
「ぜひぜひ。今、道順を書きますから」

そのお方、わたしが書いた地図を持って、行きました。
名前もお互い名乗ることなく。シルバーカードを見せて下さった時、ちらっと、Sさんだとわかって。


しかし、わたしはなんでこのまったく知らない方と長く話しをしたのかしら

たぶん、年齢的、掛けているメガネなど、父親を思い出して、懐かしくて。
でしょうかね。