ぼんやりやさん
早朝5時半頃、揺れた。わりと長く、酔いそうなぐらい。
千葉沖。東京は震度3だと。
ふみを大通りの横断歩道まで送って、Tちゃんとママがいて、Tちゃんは2、3本ビニール傘を持って。
なんで?今日昼間いっぱいまで雨ないはずだが、しかも二本…。
いつだったか、学校から戻って来た連絡帳に、PTAの知らせに、雨の日に、傘を、雨具持っていない生徒に貸し出ししているので、ご家庭の不要の傘を提供するように、みたいな内容が書いてあって。今日がその日だったのね。
ひゃ〜、皆さま、きちんといろんなものをチェックして、協力してらっしゃる。
ひゃ〜、わたくし、相変らずぼんやりしておる。
「ふみ、先生に言ってね、今日はママがPTAに総会に出ますから、その時傘を持って行きますから、って」まるで最初からそのつもりの言い方。へへ。
お昼、慌ててビニール傘を二本購入。
知らせでは、ご不要の傘だと書いてあるけど、子供たちが持って行く傘、いかにも新品だもの。
事前にもらったPTAの資料を整理してファイルに入れ、ビニール傘を持って、午後、学校へ向かう。
視聴室の入口で、自分の名前が書いてる今日の資料をもらい、さー、入ろう。
「こんにちは」、0さんだ。同じ保育園のお母さん、娘さんは2年生。
「こんにちは」
「役員になったの?なに担当?」
「広報です」
「あの」0さんは急に声をひそめて、「言いたいこと言わないとだめよ、ダメならダメって。私、最初何も言えなかったから、委員長になって、た〜いへんよ」Oさんの声また大きくなり「学童には、まだお迎えしてますよね、うちもよ、まだまだ心配だもんね…」
「はぁー」、それより、委員長?会長副会長とまた違う?委員長はなにするの?イマイチこの組織わからないや。
中に入って、適当に座ったら、前回会ったことある副会長の女性がわたしの顔を覚えてるようで、「確かに広報でしたね。広報はちょうどこの辺に座るから。ただ、もう少し前のほうに座って頂ければ、新役員の紹介があるから」
新役員?そうかそうか、わたしも新役員だじょ。
PTAのお母さんたちは、ほぼ部屋いっぱい座って、学校側にも来て頂いて(ちなみにPTAは、独立性の大きい、力のある組織だとやっと気付き)、校長先生、副校長先生、各担任の先生、職員、ずらりと傍聴している。
一見普通のお母さんに見える皆さま、すご〜い、もう喋り方やら、態度やら、テレビに出てる議員さんより、しっかりしてらっしゃる。
緊張のきの字もなく、堂々と、すらすらと、去年の活動を報告して、感心して見入るわたし。
「以上、もしご賛同でしたら、拍手頂きますか?」
パチパチパチ、わたしも慌ててパチパチパチ、
「拍手は過半数と見られるので、これは通過とのことで。みなさんの手元の資料の×××のあとのカッコの中の“案”を消して頂きますか」
そうかそうか、確立したから、“案”を消さなくちゃ。はいはい。
この調子で、総会はスムーズに進行。
次は新役員の紹介。
まず学級代表。一年の学級代表は、Yさん。前回それを決める時、誰もなりたくなさそうで、わたしは「Yさん…、この学校の卒業生ですから」
「もう何十年も前のことですから」
「でもやっぱり…」
で、Yさんに決めた。
それでわたしは初めて知る、このガッキュウダイと呼ばれる役は、一番たいへんで、一学年の全て窓口だとのことを。
ひゃ〜、慌ててYさんに頭を下げて「すみません。余計なことを。ほんとうにすみません」
「別にいいけど」Yさんの顔には、笑みがない。ありゃ〜
各学級代は簡単な挨拶をして、下に降りる。
総会の資料を見ると、次は、文化担当だね、うん。
司会者なにかが言ったあと、何人かぞろぞろ前へ、
「この担当って、人が少ないね」って、ぼんやりと眺めていたら、すぐ近くに座る方の視線を感じた。
見て見たら、ふみの担当のK先生だ。やや怪訝な顔でわたしを見てらっしゃる。
視線が合ったら、K先生は下に向いて、少し笑ったように見えた。
なんでしょうね…、あ"!、前に立ってらしたのは、広報担当の紹介じゃありませんか。一年の広報代表のわたくし、まるで関係ないみたいに、みなさんを眺めてるだけで…。
あまりにも平然としてるから、誰もそう気付いてないようだ。けどK先生はわたしの担当をご存じだから。
ふみが新学期の第一週目に、三回も教科書やノートを忘れて(わたしが入れてあげなかった)、担任の先生はとうに、親の顔を見てみたいと思ってらっしゃるに違いない。
今日は、納得したのでしょう。やっぱりね、とか。
広報の紹介だ、行かなくちゃと気付いた時、広報の5人(各学年1名)が、もう降りて来た。
\(◎o◎)/
慌てたのか、膝の上のファイルが落ちて、中から、入学式の写真の注文用の封筒が滑り出て来た。
(+o+)、なんでこんなものが?!ちゃんとファイルの中身を整理して入れたはずなのに。
拾って、ファイルに詰めて、またK先生の視線を感じた。
もう、間違いないでしょうね、このお母さんだから、ふみ君、教科書を三回も…。
総会終了、次は各委員長の選出。一番白熱する時間だと、事前に聞いてるので、今日のふみのお迎えは、パパにお願いした。
学校側の先生方は退場。
みんな椅子を持って移動するところに、K先生が近付いて、
わたしは慌てて「あの、さきほどすみませんでした、あの、ぼんやりしていて、はい、いつも」
「ああ、だいじょうぶですよ、ははは」
「なんだか、自分のことなのに、すみません」
「ふみ君、頑張ってますよ、毎日」
「あ、あの子、よく忘れ物をするんです。あ、わたしがぼんやりしてますから」
「ははは、今度ふみ君、わんぱく相撲に出るんですよね」
わんぱく相撲。5月に、区のわんぱく相撲大会があって、明治大学相撲部も来るそうで、まさに「シコふんじゃった」だから、ふみは、もちろん申し込んだ。
大相撲力士の四股名や、「内無双」などの技の名称はいっぱい知ってるけど、ふみ、まだ相撲の実践が、一回もないや。
K先生と言葉を交わして、広報担当らしきグループまで椅子を持って行ったら、その5人すでに椅子が輪になって。一年の広報担当は、当たり前に欠席と思われてるようだ。
「あの、すみません、入れて頂きますか。すみません。一年の広報担当の××です」
やはり、やや怪訝な顔されてる。
冷や汗。
でも一年の担当のこの人はいつ会場に来たのか、そういうことを考える場合ではない雰囲気みたい。
いきなり委員長は絶対無理だと言い出した役員がいたから。
「それはちょっと」髪の長い女性が。
「私二回もやったんですもん。もう無理です。私、お勤めしてるから」
「でも、みなさんお仕事なさってますよ、そういう理由は…」
「でも私二回もやったから」
「じゃ、どなたが…」
沈黙。
髪の長い女性は一人一人に向かって目で尋ねる、わたしは論外みたい。一年生から委員長が出ないのも理由の一つでしょうけど、自己紹介すらぼんやりして脱がれた人だから、という理由がもっと有力だと感じる。
PTAに、お父さんが一人だけ(海外にいる会長さん以外)いる、広報担当。
そのお父さんの仕事先は神奈川県にあるため、委員長の頻繁な活動は明らかに無理。
「私は神田にお店があって、自営業ですけど、平日とてもじゃないけど、無理ですね」
「私も…」
5人順番に自分の委員長になれない理由を述べる。
だが、わたしに聞こうとしなかった(^◇^)
「アミダクジで決めるしかない」とお父さんが言う。
「そうね、じゃ、アミダクジで、当たったら、もう文句ないでしょう」
あ、あみだくじ?なんでしょうそれは。クジと言ってるから、抽選ってことだね。
「じゃ、まずジャンケン」
ジャンケン?勝った人がなるの?じゃ、くじの意味は?
疑問いっぱいで、わたしもジャンケンに参加、勝ち続けて、わたしが勝った。
やった!で、どうなるの?
一人の女性が紙に何かを書いてる。
そうだ、さっき先生とお話をしていて、トイレに行く暇もなかったわ。
「あの、すみません。ちょっとお手洗い、いいですか?」
「え?!くじをやろうとしてますけど」
「すぐ戻ります」
わけわからないもん。(みんなもわたしのことそう思ってるでしょう)
トイレに入ろうとした時、「ふみ君のママ」と男性トイレから子供の声が。
「誰?あ、わかった、この声、0くんでしょう」
「イエース」
会場に戻ってきた時、女性二人すでに険しい顔が。
でもわたしにではない。どうなすったの?
「だから私は委員長に絶対もう無理だから、私、くじやる意味ないでしょう」
「どうして?それは公平と言えないじゃない、くじなのに」
「でも私は本当に無理、どうせ絶対やらないから、くじ意味ないでしょう」
「…。」髪の長い女性は急に大きいカバンを片付けて、出て行った。
「え?どうしたんですか?出て行きましたけど…」とわたしが。
あら、聞くんじゃなかったね。
お父さんは顎を触って天井を見て、
残りのお母さんは手元の資料を凝視する。
絶対無理と強調するお母さんは、うすら笑みを浮かべる。
もちろん誰もわたしの質問に答えてくれない。
「あの方いらっしゃらなくても、くじは続けよう」笑みのお母さんが。
あら、さっきまで「Kさん」と呼んでたのに、もう「あの方」になっちゃって。
わたしだけ描いていない、そのアミダクジの紙を渡されて、奇妙な線が描いてるの見て、わたしも真似して線を描いて、
「え?どうして横に描きます?縦でしょう」
「あっ、そうですか、すみません」
で、アミダくじの結果、わたくしは会計担当に。
はっはっはっは、よりによって会計!ご冗談を。
算数すらめちゃくちゃ苦手なのに。どうなることやら。
ちなみに委員長のくじは、あの退場した長い髪の女性に当たった。
ひゃ〜、よりによって。
ぼんやりする場合じゃない、「あの、ここにサインを。交通費です」
用紙を渡され、9百いくら、誰かがどこかに行ったみたいね。
「こういうの会計のサインがないとダメですから」
「あ、はい」、サインサイン。
どうなることやら。
学校をあとにした時に、もう5時半過ぎた。
わたしはまだ早いほう、まだ白熱して討論してるグループがほとんど。
っていうか、勝手に出て来て、いいのかしら。
「なんだかぼんやりして、みんな、わたしが頭のちょっと弱い人だと思ったのかしらね、きっとそう思ってるよ」、夕飯の時にそういうと、
「そのほうがラクだよ。それでいい、それでいい」とパパが。
風呂場で、「一年の××です。よろしくお願いします」と一人で、まったく意味なく、何回もやってみた。
もう、意味ないけどね(-_-)