北風冷たい一日
今日は小学校のスポーツ・デー。
朝、ふみを送り出してから、急いで戻って仕度する。
お昼、何時に帰れるのがわからなくて、午後2時からのPTAの集まりの資料も持って行くことに。
学校に着いたら、もう体育館で子供たちが列に並んでお話を聞いている。
最近の子供は体力や運動能力が落ちてるとのことで、いろんな運動の測定を行ない、それをきっかけとして、体力の上昇に繋げる、とのことらしい。
握力、長座体前屈、上体起こし(腹筋)の測定は、わたしたち保護者も近くで観ていた。
ふみの握力も長座体前屈も、平均を越えていて、腹筋はちょうど平均に達した。
今度はケンケンの測定、途中、足を換えてのケンケン、ふみは要領よくできた。
太陽はキラキラだが、5月にしては、冷たすぎる北風が時おり吹いて。でなかったら、こんな高いところの青空の下で、どんなに気持ちのよいことか。
お母さんたちは、みんな帽子をかぶり、日傘をさすのは、わたしだけ。
最近、気づいたけど、今の女性たち、スカートより、みんなズボン姿(膝下ちょっとの八分)、長い髪の人が少なく、ほとんどセミロング。
たしかに、そのほうが若々しいわ。
けど、わたしは、そういうの、今さら真似しても、結局サマにならないから、自分のスタイルで。
蜂が飛んできた。日傘で避けたが、やっぱりしつこくやって来る。
「いい香りするからじゃない?」と隣りのお母さんが。
そうなの、この前、やっと今までで一番のお気に入りの香水に出会ったの。
淡く、さりげなく、ちょっと甘い。
でも口に出た言葉は「なんでしょう、柔軟剤かしら」。
ほほほほ。
最後は体育館に移動して、大縄跳びの挑戦を。
低学年は、先生が縄を回す。
つくづく思う。ふみたち保育園の出身の子は、運動能力が断トツであること。
保育園で、ふみたちは毎日、存分に体を動かし、遊ぶ遊ぶ、もう遊ぶ以外何にもないぐらい。
小学校に入ってから、縄跳びができないといって苦労する子が結構いる、けどふみたちは、もう年長さんの時に、全員、縄跳びが上手になった。
体育館の縄跳びも、引っかかっちゃったのは、ふみたちではなかった。
隣りにいるTちゃんのママとお喋り。保育園のF先生の話題になって。
「もう今は、やっと苦情を言われなくて済んだわ」わたしは苦笑して「保育園の時、お迎えに行くたびに、F先生に呼び止められて、ふみの“問題”を説明されるんです。」
「ふみ君もそうだった?!」Tちゃんのママは目を丸くする。
話しを聞くと、Tちゃんもそうだった。毎日のようにF先生はTちゃんの文句を言って、これもダメ、あれもダメ。Tちゃんは一時、保育園に行きたくないと言い出すほど。
?!Tちゃんって、あんなに頭がよく、しっかりする女の子なのに?
「うちの母親は結構強い人だから、一回お迎えに行った時に、F先生の話しに対して、“そうですか、うちの子はそんなに悪いですか、私はそうは思わないけど”って言ったのよ」
それでもTちゃんは保育園に行きたくなくて、どうして?と聞いたら、F先生に怒られると答える。どうして怒られるの?と聞くと、全然わからないとTちゃんが。
なのでF先生と話しをした。けど、まったく噛み合わなかった。
Tちゃんのママは他の先生に相談して、園長先生にも相談して、園長先生に、いっぱいあやまってもらって。
F先生というのは、全く変わらなかった。というのは、自分のどこが悪いか、どこが間違えてるのか、少しも気づかず、少しも認めなかった。
N先生が言うには、F先生は若いから、経験が浅く、おまけに性格上、柔軟な考えを持っていなく、何でも本の通り、テキスト通りしようという頑固な方だと。
本人が一生懸命な分、何でも深刻に考えてしまって、だからちょっとしたことで、子供の成長上の大問題を発見したとする。
いくら話しあっても、本人にそれを気づいてもらうのは、無理だった。
成人になって、性格を直すのは、不可能に近いからね、よほど立派な人間じゃない限り。
…。
へぇ〜、Tちゃんのママ、よく戦ったね。
「最初は、どうせ卒園するから、ちょっと我慢すれば済むことだし…とも思ったけど、でも、これもF先生のためだと思って」とTちゃんのママが。
そうね、うちも、どうせ最後だからと思ってきた。わたしも、ふみにも、ガマンすることを選んだ。
正直、あの時は、結構つらかった。
大縄の記録挑戦、結局できなかった。
自分のせいだと、泣いた6年生の女の子が二人いて、校長先生が二人の肩を抱えて、慰めてくれた。
スポーツ・デーが終わって、ふみと近所のお店で昼食を。
「ふみ、F先生って、みんなに怒ってるみたいね」
「F先生って?」
「保育園のF先生よ、忘れた?」
「ああ〜、F先生がどうしたの?」
「いろんな子に怒ってるらしいよ、なんかおかしいみたいで、お母さんたちはみんな怒ってた」
「ほらねー、僕が言ったでしょう。あの先生は毎日怒ってばかりだよ」
「Tちゃんのママが言うには、Tちゃんが、保育園に行くの、もう嫌になって、たいへんだったみたい」
「実はね、僕もね、行きたくないなって、思った時いっぱいあったよ。行ったら、あの先生に怒られてばかりで、嫌だもん」
「…、ふみ、よく頑張ったね。」
「うん」
「でもママはずっとふみを信じてたからね、そうふみに言ったでしょう?あの時」
「うん」
「ふみ、F先生のこと、どう思ってる?」
「別に。好きでも嫌いでもないよ、もう忘れた」
「…。それはよかった。ふみ、そういう嫌な人、嫌なこと、大人になってもたくさんあるのよ。本当に仕方がない。忘れるのが、一番かも。ふみはえらいよ」
わたしは、ふみのことを、守ってるより、見守るしか、できないのかな。今までも、これからも。なんだかね〜
うちに戻って、持って帰った学校の上履きを急いで洗って外に干し、また出かける。
ふみを学童にお願いして、わたしは再び学校へ。
広報担当の5人(一人欠席)が集まって、今年の仕事の打ち合わせを。
学校の新聞、年に二回、出すことに。まずその内容を決めること。
「賞、狙います?」と委員長が。
二年ぐらい前か、都の小学校広報の新聞のコンクールに、受賞したことがあるらしい。
「…」
「いいんじゃない?」
「そうですよね、あははは」
「ね〜、ラクにいきましょうよ」
写真を載せたり、製版などは、委員長の知人を頼むことで、印刷費含め、6万円以内で収まる、カラーの光沢なのに。
1ページ目に、新入生の集合写真を載せることに。
廊下に貼ってある集合写真は、写真屋さんが撮ったもので、権利などの問題で、基本的に使えない。誰か個人で集合写真を撮った人のを探さなくちゃならない。
それと、担任先生のインタビューを。
一年の二組の二人の先生、2組の先生は新しく来た先生で、1組の先生は、K先生。
K先生の話しになると、急に盛り上がって。
「K先生って、プライベートまったくわからないよね」
「そうそう、そういう隙、一切、見せないね」
「去年だっけ、めずらしくお休みをして、奥さんのお父さんの葬儀でと、それで初めて、あ、結婚してるんだってわかって」
「そうそう、そもそも、何歳ぐらいだろう。40代でしょうけど」
「子供に対しても敬語ですよね」
「そうそう、いつも姿勢もよくて、言葉もきれいで、なんか、プライベートの情報、全くないよね」
「ほんとうほんとう。一回駅で会ったのよ、学校の中でとまったく変わりなく、そんなに堅くなくだって」
「そう、しかも担任じゃなくなったら、もう逃げるように、できるだけ目も合わせてくれないというか」
「そう!わたしもそう感じて。この前、私は学校に電話した時、ちょうどK先生が出たのよ。私の名前を聞いた途端、すぐ、“あ、担任の××先生ですね、少々お待ち下さい”って、別に少し話してくれてもいいのに。私ってそんなに怖いかなって」
「個人面談だって、はい、終わり、みないな、もう少しお喋りしたっていいじゃない」
「去年のインタビューだって、質問にの答え、一言二言しか、最小限にしか書かないしね」
「もう今年のインタビュー、書くのやめよう、誰か本人に聞きに行かないとダメね」
…
へぇ〜、そうなんだ。K先生、わたしにはそんなに謎めいた先生には見えなかったけどな。溌剌した、元気な先生だなとしか。
確かに子供たちにも、苗字の後ろに、“さん”をつけて呼んでました。
でも、ふみは、自分のことを「ふみ」と呼び捨ててる、と。
(怒られてるんじゃない?)
どっちでもええやないの。
とにかくみなさんは、K先生のことをもっと知りたいようだ。
づくづく思う。日本人って、いわゆる隙のない人を、なかなか許さないというか。
なにか隙と発見すると、やっと安心するというか。
日本的の“美”への感覚は、まずどこかに欠落がないと、美と認めない。
日本庭園がその典型だと言われている。欧米と正反対で、左右対称で、完璧なものは、絶対あり得ない。
かならずどこかバランスを崩してる。
だから有名人も、完璧すぎると、好感持たれない、叩かれる。
どこかが抜けてるなら、受け入れてもらいやすい。
K先生もそうかしら。髪から服装から言葉や行動まで、乱れることがなく、あまりにも完璧で、隙がないから、みんなにおかしいとさえ思われてるでしょうか。
黙ってみんなの話しを聞くわたし。
しかしみなさんは、一人だけ会話を参加しない、微笑んで聞いてるだけだなって、少しも違和感を感じないようで、ま、助かるというか。
PTAって、もう知らないことないね。怖いほど。どんな情報でも。
ちなみに、とうにみなさんは、わたしが日本生まれではないとご存じで、ひゃ〜、感心さえした。
これからも、ずっと外国人のツラで行こう( ^^) _
ラクだわラク。いろんなことを許してもらえるというか。
新聞のこと大体決めて、次の集まりも決まって、宿題も決まって。
会計担当のわたしは、10万円の現金を預かって、さあー、走ろう。学校を後にして、日傘をさして、わたしは小走りに学童へ向かう。
学童の保護者会はもう確実に間に合わないでしょうけど、その後の父母会には、まだ間に合いそうだから。
ホールに入って、もう父母会は始まってる。
みんな大きな輪になって座って。
わたしを見て、Nちゃんのママが四つん這いで真ん中に行って資料を取ってくれて、S君のパパが座布団代わりのクッションを取ってくれた。
保育園の同級生の親、本当に助かる。在籍の時はそれほど思わないが、卒園してから、親しく感じる。
誰かがしゃべってる。会計の発表みたい。
見て見ると、エレガントなファッションの女性だ。
声を聞くと、?、と感じて、よく見てみたら、この、髪に大きいサングラスを飾りかけ、カーディガンにストール、スカート姿のキャリア・ウーマン風な方は、男性だとわかる。
でも、誰一人も変わった表情をする方がいなく、その発表を真剣に聞いている。
女装趣味であろうか、戸籍上で性別をもう変えたのか、関係ないもの。ここでは、3年生の女の子の親として、それ以外何にもないですから。
みんなに役があって、わたしは運動会の担当の一人に。
秋になると、他の地域のいくつかの学童クラブと連携しての運動会がある。その開催の準備やらなどの雑用。
はいはい。もうやるしかないから。
明日朝、NHKで、ふみたちのスポーツ・デーのことを取り上げるそうだ。
学校にNHKのカメラが入るのは、これで3回目らしい。