ふみくんのママ

小学校から、月曜日の金環日食の観測用メガネが配布され、ふみ、持ち帰ってきた。

うちでも、パパは買ってあるけどね。

連絡袋に、「もし観測により遅刻しても、遅刻扱いはしませんので、落ち着いて登校して下さい」との連絡が入ってた。


ふみの湿疹、だいぶよくなった。ホッペも白く戻ってきて。


昨日の登校道で、「ふみ君、顔色悪いぞ」と2年のR君が。

悪いって…、良すぎるんじゃない?真っ赤だもん。



今日は予報通り、朝まで雨、晴れて、昼から雷雨、また晴れて、やや強い風。


ふみに傘を持たせたけど、登校も下校も、うまい具合にお天気になった時に。


午後、ふみを学童へお迎えに。

近道の住宅の前を歩く。女の子の声が聞こえて、ケラケラという笑い声。

体の大きい男が、ちっちゃい女の子を抱きあげて、横にしたり、逆さまにしたり、そのたびに女の子は笑う、笑いすぎて、悲鳴にも聞こえる。


「あ、ふみ君のママ」、その逆さまの顔がわたしを呼ぶ。

男は慌てて女の子を下す。Mちゃんだ。

保育園で、ずっとふみと一緒で、遊んだり、喧嘩したり、お昼寝の時は、いつも寒いと言って、ふみのお布団に入って来て、ふみは入れたり入れなかったり、それでトラブルになったり。


小学校は別々になって、しかもMちゃんは、学童に行ってない。


一回だけMちゃんを見かけて、朝の9時前、とうに学校が始まってる時間に、Mちゃんのお母さんが自転車に乗って、Mちゃんは、ちゃんと椅子にではなく、自転車のフレームに立って、お母さんと一緒にハンドルを握ってた。

声をかけづらかった。お母さんは、いかにも起きたばかりだった。


Mちゃんはお父さんがいない。“おじさん”は、つねにいるようだ。
「あのケチじじいから、どうやってお金をもらえるのを練ってるの」と、卒園前のMちゃんは、そうふみに言って。

ふみから聞いて、Mちゃんのことが不憫になった。


「ふみ君のママ、ふみ君、元気?」
「うん、元気よ、Mちゃんは?」
「元気。ね、ふみ君と全然会えないね」
「ほんとうね。Mちゃん、小学校、楽しい?」
「う…ん、楽しくない。私いつも先生に怒られてるの」
「ほんとう?なんで」
「私のことをね、バカバカって言うの」

通りかかったおばあちゃんが「Mちゃん、また嘘だね。先生はバカとか、言う訳ないじゃない」
「言ったもん、ほんとうよ。言った、バカって」
「じゃ、今度その先生に言って、私バカじゃないよ、頭いいよ」とおばあちゃんが。


その大きい男は、傍で立って、へへへ、へへへ、と笑って。


「でも楽しいよ、ね、学童、SちゃんもU君もH君も、あ、最近M君も行ってるよ」とMちゃんが。

「うん、みんな、楽しいみたいよ」

「へぇ〜、そうなんだ。あの、ふみ君によろしくね」

大きい男は関西弁でMちゃんを呼んで、自転車に乗ってどこへ向かった。
「ふみ君のママ、みてぇ〜、あたし、こうやって乗ってるよ〜〜」
Mちゃんは、やはり自転車のフレームに立って、男の両腕の間でハンドルを一緒に持ってる。「ふみ君によろしくね〜」

そんなMちゃんの後ろを見て、しばらく佇んでいた。


学童の入り口で、「あ、ふみ君のママだ」と、男の子が。

またまた見覚えのない顔の人が、わたしのことを知っている。

「あ、あの、下の名前はなんでしたっけ」
ずるい、上の下も知らないのに。

「T・Hです。3年生」
そうかそうか、ふみから、それらしき名前は聞いたことが…、かな。

しかしわたし、ダメね。もうこんな状況、連続じゃない、見知らぬの方に、正確に名前を呼ばれ、なのにわたしはなんの心当たりもなく。

どうなってるの?しっかりしてぇー