淡々と

観音堂に咲いてる睡蓮。





今日は、わんぱく相撲大会。ふみは申し込んでる。

お仕事でいけないパパは、朝、お弁当を作ってくれた。


地下鉄に乗って、一回乗り替えして、会場に着いた。

学年別で受付、まず爪のチェック。
ふみの爪は、朝6時頃、整えてやったから、問題なし。


区内の一年生32人、ふみと同じ保育園だったお友だちは、4人いた。


会って、お互いとっても嬉しそう。


ボーイスカウトの演奏で、開会式が始まり、関係者や、お偉いさんたち長々とご挨拶してから、各学年で全部3百あまりの選手たちが、スポンサーである某飲料メーカーが提供した、ゼリータイプのスポーツドリンクを持って、記念撮影。


明大相撲部の部員たちが、実演で反則の動きなど説明してくれて。



簡易回しをつけてもらうふみ。


試合開始。


ふみは、落ち着いてる。
普段のふみから想像しづらいほど。


緊張も、興奮もなく、平淡な顔で試合に臨んだ。


仲良しのH君。一回戦で負けた。

それを見てふみは、何も変わった表情はなかった。


ふみが出た。

礼をして、わりと素早く、相手を倒した。
礼をして降りてきたふみは、手首のテープに、マーカーで○を付けられ、次の勝負を待つことに。


負けた子は、マーカーに×を付けられる。


ふみのお友だち、3人残り、負けたH君のもう一回戦を見守る。

H君が出て、ふみ、S君、O君、三人で、ばらばらなかけ声でH君を応援する。

「H、がんばれー」
「H、勝つんだぞ」

その小さな、だけど少しも汚れていない友情に、うるうるするわたし。



H君、投げだされて、その場で体を丸めて、泣き出した。


それを遠くから見つめるふみ、S君、とO君であった。


勝ち組からの二回戦、S君、負けた。


でも泣かずに、降りてきた。

ふみの出番だ。対戦相手は、なんと、O君だった。


二人とも、一瞬ぼーとしたが、すぐに試合は始まった。


ふみ、O君を倒した。

O君も泣かなかった。


三回戦の対戦相手は、退場したため、ふみは不戦勝だった。


観戦している保護者たち、興奮しすぎ。

我が子が出たら、もう、「がんばれー!」と、声が破れるほどに叫ぶ、
試合が開始したら、「押せぇー、押せぇー、おせぇぁ〜」、「頭!頭!腰!まわしを掴んでぇぁ〜」


もう少しで土俵に上がって、我が子の代わりに戦うかな、っていう勢い。


わたしは、なにもしなかった。正座をして、黙って見ているだけだった。

勝ったふみは、礼をして、わたしのほうをみる。

わたしは小さく頷いて、そして低い位置で、小さく手を振る。

それに対してふみは、他人じゃわかりにくいほど、淡い笑みを一瞬見せる。



四回戦まで残ったふみは、負けてしまいました。


礼をして、降りてきたふみに、「よく頑張ったね。ご苦労さん」と声をかけ、

「うん」とお茶をごくごく飲むふみ。


今日は暑い。会場の中は、空気の動きすら感じない、3百人あまりの子供がいて、わたしには酸素が足りなく、くたびれて。
洗面所の鏡に映る顔は、土色。



外に出てお弁当をいただきながら、ふみは、
「最初は楽勝だったから、なんにも考えてなかったけど、四回戦、難しいと思って、作戦を考えた。いきなり相手の後ろに飛び回って、というのをしたかった、作戦、失敗だ」と。



「でもふみは、勝っても負けても、終始淡々として、立派だったよ。感心して、ママは涙出そうになった」

ふみ、憧れてた双葉山関に、少し近づいたのかな。

われ、いまだ木鶏たりえず。


くたくたのわたしだが、頑張って新宿の「無印良品」に寄ることに。
ふみの運動会に、忍者のなんとかの踊りをやるため、黒の無地のTシャツが必要。しかも金曜日に言われて、月曜日に持ってくるようにと。


黒の無地、子供服には、なかなかないのに。


ネットで注文しても、日にちはかかる。ユニクロに行ってもなかった。


無印良品で、あった!
やれやれ。


夜、もうなんの気力もなく、もう自分はダメだと思った。わたし、あとどれぐらい生きられるだろうって思った。
ぐったり。


暗い中、ふみが「H君、一回だけ勝ったね」と。

「H君、二回とも負けたよ」

「…。そう言わないで。かわいそうだから、一回勝ったって言ってよ」