ボールを

明け方まで、雨がザーザーと降っていて、6時すぎ、やっと上がった。
それからは霧雨が降ったりやんだり。


もう一種類のミニトマト、ふみが収穫して、もっと枝にしばらく残してあげればよかったかな。そうすると、赤くなるかな、それとも、やっぱり黄色いトマト?


オクラ、あまり大きくなると、堅くなるから、収穫。


お蕎麦に入れたオクラ、ふみは、やはり一口も食べないや。


今日は学校の図書室の装飾の日。
梅雨時季のアジサイや、かたつむりから、朝顔、お魚、水草、かもめに、貼り替えて。


それをやり終わったところ、ちょうど、ふみたちのニ限目が終わって、10分のお休み時間なんだ。

下駄箱の前で、急いで上履きをスニーカーを履き換えながら、校庭に出てからの鬼ごっこの役割分担を、何人かの男の子と相談するふみに、「ふみの朝顔はどこ?教えて」と言うと、
「え〜〜」とふみが。
わかるわかる。貴重な10分間、走り回りたいもんね。

ふみ、やはり、たくさんの朝顔に向かって走った、慌てて後ろについて行くわたし。


「これ、僕の。もう閉じてるの」ふみは、そう案内してから、猛スピードで去った。


これかー、「ピンクだけど、薄い紫」というふみの言葉の通りだね。大きいね。


そう思って見ていると、「ね、みてみて」との声が。

振り向いたら、プラスチックの箱を持って、おさげの女の子が立ってる。

このちょっとぽっちゃりしてる女の子、公開日の時も、わたしのところに寄って来て、ホッペを突き出して、「みてみて」と言って、ホッペに止ってるてんとう虫を見せてくれてた。

虫、大好きなようだ。

今日の箱の中は…、たくさん団子虫が…!

団子虫は、あまり得意じゃないわー。

「ね、ね、かわいいでしょう?」

かわいい?足がいっぱい動いてるその物体がですか?
でも女の子がそういうと、なんだか可愛く見えてきた、…かな。

「かわいいね、足、何本?」とわたしは中の葉っぱを持って、一匹をひっくり返してみる。

「十二本だよ。ね、あまりいじらないで」
これは失礼。

「十二本?でもこれ、片方7本だから、十四本なんじゃない?」

「ね」女の子は、まったくわたしの質問を無視して、「団子虫って、エビの仲間よ」

「エビ?」

「そうよ、エビ。だからね、水に入れてね、死なないよ、少し泳げるの。ずっと昔、エビと同じだったの」

「へぇ〜、水に入れたことは…」聞いてないや、女の子は「ありんこだ!」と言って、足元の近くを通った巨大な蟻を捕まえた。

小さい蟻はいいんだけど、こんな大きいのは、ちょっとあまり得意ではないな。

女の子はその大きい蟻を愛おしそうに持って、腕に止らせた、蟻は慌てて右へ左へ。


女の子と、箱の中の虫の話しをしていると、他の女の子も寄って来るが、団子虫がたくさん集まってる箱を見ると、すぐ去った。


ふみは、生き生きと走り回ってる。水色のシャツは、見えたり、見えなくなったり。

K先生も走り回ってる。ちょっと発達の遅いK君と。
そういえば、「休みの時間、K先生はいつもK君と遊んでるよ」と、ふみは前に言ってた。

♪キンコンカンコン

あ、中に入らないと。


子供たちは一気に建物に入ろうとする。

後ろで歩くわたしは、目でふみを探す。


いた。
K先生に腕を掴まれている。

K先生は目を大きくして、ふみに何かを注意しているようだ。
ふみは前へ走ろうと、そのK先生の手を思いっきり払った。

K先生は再びふみの腕を捕まえ、「な?な?前も話したよな?」

「はいはい」と、ふみは眉をひそめて、顔中不機嫌、再度K先生の手を払って、去った。

体をまっすぐにしたK先生は、わたしと目が合った。


逃げたい〜
早く中へ入ったほうがいいか、
透明人間だったら…

何をすれば、何を言えばいいのか、まったくわからず、ぼーっと立ってるわたし。

「ご苦労さまです」K先生は爽やかに。

「×××」口に何を言ってるのかは自分もわからず、小さい声でなんとなくそれらしき発音して、おじきをした。


ふみ、頼むよ〜
学校に来るたびに、はらはらさせないで。
学校にくるたびにママに、何かであやまらなきゃいけないこと、もうさせないでよ。

ふみ、…。


ぐったりした気分で学校に出ようとする時、Kさんと会った。漫画家のKさん、今日はPTAの集まりだった。


「ふみ君はいい子よ、私は好きよ。かわいいし、あんな優しい目をするんだもん」とKさんが。


「ありがとうございます」

Kさんは、いつもふみのことを褒めてくれる。


夕方、塾へ向かう途中、「ふみ、今日はK先生に腕を捕まえられてたね、何を言われた?」

「え〜?もう終わったことでしょう、いいよ」

「よくないよくない、理由、教えて」

「え〜、忘れた」

「そんなわけないでしょう、教えて、すぐ忘れてあげるから、パパにも言わない、約束する」

「ほんとう?えっと、サッカーじゃないから、あのボール、足で蹴っちゃダメよって。はい、終わり、もう忘れた?」

「ボールを蹴るって、前にもあったでしょう?なんで…」

「約束でしょう?もう忘れるって」


(-_-)



学校から借りた本を持って帰って、家で読むふみ。

図鑑含め、大きな二冊、よく重くなかったね。