薔薇

駅に向かう途中に、一軒古いおうちがある。

壁も窓の形も、年代がだいぶ経って。お庭の柵もボロボロ。

そのボロボロの柵の中、梅雨になると、向かって右側に、紫陽花がたくさん咲いて、夏には、反対側に、小粒の薔薇が、ボロボロの柵をはみ出して、たくさん咲き誇る。

玄関の名札に、中国人らしき女性の名前が書いてある、
住人の老婦人は、時々道路に落ちた花びらや葉っぱを掃除する。

ゆっくりと、ホウキで葉っぱを一枚一枚、チリトリの中へ掃いてるその老婦人は、薄い茶色の大きいメガネを掛け、いつもチャイナ風の服を着ている。


家に他の出入りする人は見かけたことがないから、老婦人は、恐らく独り暮し。

その老婦人は、わたしと目が合う。歳のせいか、老婦人は視線を機敏に動かせなくて、わたしの顔に長く留まる。


その視線に負けて、わたしは下を向く。

老婦人、細く真っ直ぐな鼻筋と、大きいな丸い目の端麗な顔立ち。若い時は、さぞ美人であったことだろう。


逢う回数が多くなると、いつの間にか、お互い会釈をするようになって。


秋深い日に、黒の生地に、金の糸の刺繍の、やはりチャイナ風の半コートをまとう老婦人は、ゆっくりと、道路に落ちている枯葉を掃く。


朝晩、だいぶ冷えてきたからか、長いスカートの下は、タイツに、さらに分厚い靴下を履いてる。


婦人はホウキの手を止めて、わたしを見て、微笑んだ。

笑顔を見せ、わたしは足を止めることはなかった。


いつか、いつか、お声をかけてみるかもしれないが、そのいつかは、わからない。