ランドセル

今年のミカンはおいしい。どれを買っても、外れはない。今年はミカンの当り年かしら。


久しぶりに、本当に久しぶりに、Kさんの中国人の奥さんと会った。

「や〜、なんか、変わりましたね、もうわからないぐらい。これで街ですれ違ったら、私は絶対分からないよ」


全く同じ感想です。わたしもKさんの奥さんがだいぶ変わったと思って。

まず日本語の流暢なことにびっくり。前回(初対面)に会った時は、まだ単語でしか話せなかった。


息子を抱っこして、とてもしっかりしてるかわいい子で、
「九ヶ月」と聞いて、驚いたわたし。2歳かと思った。

中国の東北地方出身の彼女は、故郷の習慣だと、赤ちゃんはとにかく大きく生れたほうが、誇らしい。将来も丈夫な子に育てる、との考えのようで、
「この子4千9百で生まれたの。私、悔しくて悔しくて、おっぱいでも一口を飲ませばよかった、そうしたら5千になったのに、本当に悔しい。どう見ても5千以上あるのに、ちゃんと測ったかな」

さすが5千グラム近くで生れたその子、丈夫そうで、賢そうで、名前も強くて、とても印象だった。


今、その息子さんは、背の高い6年生で、格好いい野球少年になったそうだ。


下にも弟が一人生れて、ふみと同じ歳。

あの日本語片言の彼女は、今や、幼稚園や小学校の行事に積極的に参加し、車を運転して、息子を乗せて、野球の試合に連れて行く肝っ玉母ちゃんになっている。

「車の運転も?素晴らしい〜、わたしは全然ダメなんです」
「なに言ってるのよ、うちは田舎だから、車がないとなんもできないから」

わたしと彼女の会話は、日本語。

「ね、思わない?母国語忘れますよね。言葉が出て来なかったりして、ない?」
「ありますあります」
「ね〜、変な感じよね。もうどっちが居場所って感じね。ま。しょうがないよ、一生消えないよ」
「…」、一生、消えないでしょう。どこに行っても外国との感覚は。

「うちの旦那、ほら、ああいう性格だから」
「Kさんはいい人って、みんな言ってますよ。真面目で」
「真面目、おとなしい。いい人。でも、つまらないというか、あははは、しょうがないね。仲はいいけど、なんというかな、うまく言えない。文化や習慣の違い、やっぱり消えないよ」
「…」
「でも子どもはかわいい。そう思うでしょう。子どもがいるからよ、それが大きいね。子ども、かわいいでしょう?」
「かわいいより、たいへんが先かな」わたしは笑う。
「そりゃたいへんよ、子どもだもん」
「でもR君は言うこと聞くでしょう、もう6年生だから」
「聞くわけないじゃない。もう私が何を言おうとしてるのはわかってて、“テレビ消して”の“け”の字の時、もう“やだー”って、いつもこうだよ、もう“やだー”しか言わないよ、腹立つ。でもかわいいよね」

(えらいわ〜)

「東京は外国人多いでしょう、いいね、うちのあたり、外国人私一人、誰も私がどこの人だと聞かないのよ、日本人はおもしろいね。しょうがないから、私自分で言うの。中国人ですって。うちの子も、自分で言ってる、ママは中国人だよ。うちの子ね、作文でね、ママは中国人で、僕初めて中国に行く時に、飛行機から雲が見えたとか書いて。今はあまり中国に行ってない。だって子どもだけ連れていくても、飛行機代だけで30万かかっちゃうから…」

わたしたちの会話、ずっと日本語で。

最後「あなた、変わったね、日本人っぽくなって」と彼女が。

わたしは、全く同感。


うちに戻って間もなく、ふみも帰って来て、
手に、体操着の袋、ランチョンマット、給食当番の白衣の袋。

「どうしたの?なんでランドセルに掛けてないの?」
「うん、なんかね、取れたの。よくわからない」


見て見たら、びっくり。確かに取れた。けど、袋たちだけじゃない、ランドセルの部品まで。

「どうやって?!ふみ、ランドセルは、6年間使うものだから、大事にしてって、いつも言ってるでしょう」

事情を聞いたら、下校道で、ふみは他の二人と走り出して、ランドセルが道路の柵にぶつかり…。

「でね、ぶら下げてるものがみんな投げ出されて、ぼくが“あれ?ここ体操着がある”と拾って見たら、僕のだった、ははは」

はははじゃないよ、
塾まで連れて行かなきゃならないのに、購入したデパートに電話して、説明して、6時半までに持っていくことにして。

「ママ、“お”という字、いっていいかな」
「え?」
「だから、お。…お、や、つ」
「おやつ?学童で食べてないの?」
「ぼく3時半もう出て来たよ、おやつ間に合わないよ」
「さっきいえばいいのに」もう出かけるのに。
「だって、言える雰囲気じゃないかなって」

今日、観音会で頂いたお饅頭をふみに食べさせ、塾に入れて、わたしは予約したネイルサロンへ。

今日は隣りに男性だった。店員のKさんじゃなくて、お客さんが。

長い爪を真っ赤なネイルを。

あとで店員さんが、その方はニューハーフの方で、そういうお店で働いてる。ネイルをやってもらってる時はわりと静かだが、普段は相当賑やかだと。

ネイルが終わって、電車に乗って、ふみのランドセルを持って、帰宅時間帯の車内で、こんな大きい荷物、申し訳なくと思いながら、デパートに着いて。

メーカーさんに修理を頼むようにして、一ヶ月かかるので、無料でランドセルを貸して下さって、またその大きい荷物を持って、帰路へ。


今度は、電車ではなく、徒歩。新宿から歩いて帰ってきた。