金・金・金


蒸し暑さが日に日に増して来まして。

パパは出張中で、ふみは、退屈だと連呼です。

ママじゃ、なかなか遊んでくれないですから。
ウルトラマンとか、わからないもの、それに、疲れてるもの。

「ママは、いつも疲れてるね」

「そうね〜、生まれ変わったら、まず、元気な人になりたいな〜」本音です。


だらだらと横になったりして、休日を過ごそうとしていましたが、
ふみの再三の催促により、昼下がり、日傘をさして、渋々とふみを連れて出掛けることに。


ふみは、金魚の水中アート展を観にいきたいと言うので、地下鉄に乗りました。


会場に入る前に、さきに金箔のお店に入って。

金に惹かれるわたしでございます。


金沢の金箔店ですが、あらためて、金って、実に上品で落ち着きがあって、神秘的で、高貴なものであることが認識されました。


成金のキンキラキンは、論外ですけど。




金に陶酔するわたしに、店員さんが、宝石への金箔打ちの体験をなさってみませんか、と声をかけてくれて。


ふみは積極的に応じます。


こんな企画を知らずにきた私たちは、事前に予約した4人のご婦人と一緒に座り、金沢のその金箔店のデザイナーの女性の、金箔についての講座を受けます。


軽い息で揺れる金箔、手のひらに置いて、指で撫でると消える金箔(純度の高い金箔は、細かくなり、お肌に浸透)、1ミリより遥かに薄い金箔、やはり神秘的で、儚く見えて、逞しいのであります。


次は、瑪瑙や水晶などの天然石を選んで、金箔を貼る、という作業に入ります。



ふみは、みどりの瑪瑙を選びました。
みどりのような、青のような、深い湖みたいで、美しいです。


それと水晶も。
「剣みたいだから」と、ふみは細い形の水晶を選んで、
「小さいのだから、二個でもいいよ」とスタッフの方が。



わたしは紫の瑪瑙を。それと、いろんな色の石の中から、やはりふみと同じく、水晶を選びました。



綿で接着剤をつけ、軽くポンポンと石の金箔を付けたいところに押し、頂いた金箔を、紙に挟んだままハサミで切って、それからその金箔を、接着剤の着いてる石の上に覆うように。


筆で余分の金箔を掃くと、石の上には、所々、金箔が神秘的な輝きを…、のはずだが、やってみると、意外と難しいのです。


思った図案とは違うのができて。

水晶は凸凹のためか、いくらかやりやすく、平らの瑪瑙は難しかったです。




ふみは、真剣に話を聞いて、真剣に作業を取り込みました。



平らの瑪瑙の図案は、斑のようにしたほうが、
と、デザイナーの方が教えたのに、
ふみは、一ヵ所にだけ、隙間のない金色にして、その反対側も同じく。
真ん中が、ちょっと斑になったのを、ふみはスタッフさんを呼んで、消してもらうようにと。

「これもこれでいい感じですよ」
「取って下さい。要らないから」
「へぇ〜、こだわりがあるんだ」
と、スタッフさんは笑って、“余分”なところを拭き取ってくれました。


ふみの作品です。



こちらはわたしのです。


わたしたちの作品を、丁寧にきれいな袋にいれ、使いきれてない金箔を紙に挟み、作品と一緒にくれます。



その作業の間に、わたしたちは、金箔入りのガラスで、冷やした加賀の高級焙じ茶を頂きながら、金箔入りの金沢和菓子を賞味します。



ビックリするほどの安い値段なのに、贅沢で貴重な体験をさせて頂きました。

お声をかけてくださったスタッフさんに感謝。



それから金魚アート展に、やっと行くことに。
もう夕方に近い時分になりました。



金魚アート展、一昨年と比べて、メディアに大いに取り上げられて、その宣伝効果で、とても混雑してました。



それと、ふみのお陰で、生き物との接触が多くなったせいか、今回見る金魚は、美しいと思うより、不憫な気持ちが大きかったです。


急激に変化する光の中、様々な窮屈な容器を泳ぐたくさんの金魚は、さぞやストレスが溜まるのだろう、そう思うと、金魚の目から、哀しみを感じてならないのです。


6時を回ったので、夕食はその下の階の中華にしました。
パパからのメールで、ちょっと遅くなると言ってますし。


二人とも麺類にしました。
某有名料理人のお店ですが、わたしには、油が濃く、調味料の味が強い感じでした。


店長のようなスーツ姿の方がきて、もしかして、金魚展を観にいらっしゃったのでは、と聞くのです。


そうですと答えたら、

「ではお飲み物をサービスいたします。ジュースかウーロン茶、どっち…」

「金魚を観に行きましたけど、そのチケットがどこにあるかは今、…」

「いいんですいいんです、そういうことにしておきましたから」


オレンジジュースとウーロン茶を飲むふみとわたし、スタッフさんに恵まれてる一日でしたねって、窓の外の夜の日本橋を眺めて。






地下鉄駅から出て、しばらく歩いたら、ふみの同級生のK君とお母さんに会いました。

「さっきね、一羽落ちてね、もう、かわいそうでかわいそうで、毎日通る時に見るんですよ、今朝までだいじょうぶだったのに…」

燕の巣です。

ヒナが3羽いて、1羽大きくなって、巣が小さくなったのか、落ちて。死んだ。


すぐ近くに、ヒナたちの親がいて、蛍光灯のカバーに無言で止まって。


「親たち、わりとケロッとしてるのよ、自然界ってこうなんだから、しょうがないや、一生懸命やったし、と思ってるかもしれないね、ほんとう、しょうがないよ、かわいそうだけど。毎日見てましたけどね、…、ふみくん、見に行くの?だいじょうぶ?触っちゃダメよ、ま、ふみくんは触らないよね、だって、前、うちのKが鳩に近づいたら、“K君、ダメよ、鳥インフルエンザがあるから”って言ってね、…、ふみくん見てあげた?えらいね、ちゃんと見たほうがいいよ、頑張って生きてたんだから、何ヵ月だけだけどね…」