カップ麺様

雨は夜中に上がったようで、クーラーなしでも、涼しい、ひんやり。



下校したふみは、いきなり、
「なんで申し込んだのよ!ぼく、×××知らないし、ファンでもないし、行きたくないし、なんで申し込んだの!?」とわたしに怒って。


えぇー、なによ、昨日話したじゃない、「うん」と返事したじゃない。あれは、聞いてなかったの?


ふみの学校、某アイドル歌グループの、某コンサートに、舞台で一緒に歌う子供を募集して。もちろん多人数。


ふみの学校は、顔が広い校長先生の関係で、芸能人や有名人が来たりする。二学期が始まったばかりに、某世界水泳のメダル選手が来て、これでこの選手は三回目。お母さんたちも見に行ったり、わたしは行ってないけど。


去年、某メーカーが、ふみの学校でCMに出る子を募集して、応募された子供はみんな校庭で撮影して、その後、たしかにテレビのCMに、ふみの同級生が流れていた。


ふみは小さい時から、スカウト的な声を掛けられことは、2、3回がありまして(あまりにも個性的な眉毛からかしら)。
パパは、そういうの一切ダメだとの考えなので、そのCMには、全く応募せず。

あとで、他のお母さんが、「とてもいい思い出になった」「いい記念だわ」「なかなかない体験だった」との会話を聞いて、些か後悔するわたしであって。

ふみにも、こんな体験をしてほしかった。なんだかふみに悪かったなって、思って。


今回の舞台で歌うことは、CM撮影ほど楽ちんではなく、三回も長時間のリハーサルがあるそうで、
でも、ほぼ一番人気のその男性グループ(残念なことに、わたしは歌が一曲も知らない)の後ろで歌を歌えることは、もう二度とない体験だとわかる。


子供にとって、一生忘れない経験、全く違う世界を知るチャンス。


別にその世界に入るわけではないから。一回だけの経験だから、ありがたいことだと思って。


「ふみ、数えきれないファンが下で手を振ったり、叫んだりするのよ、こうでもないなら、一生その光景を、上から見ることはないのよ、一回だけだから、しっかり味わってみて。だって、ついこの前、何とかアイドルのコンサートを見ようと並んで、結局、過呼吸になって、病院に運ばれたファンの方もいたでしょう、贅沢よ、×××の後ろにいて、そして舞台の下の人たちを見るなんて、だから申し込むね…」
この話し、ふみは「うんうん」と返事して、あれは、聞いてないというの?


「とにかく行かないから!恥ずかしいし、かっこ悪い。ぼく全く興味もない、誰だよ知らないから、行かないからね!」と、ふみはたいへん憤慨しておる。


いやだ〜、そう言わないで、×××さんざんテレビに出て、引っ張りだこじゃない。


それよりどうしよう、なんとか説得しないと。


「都内のスタジオでリハーサル、楽しいよ(厳しいんだと思う)、お弁当も出すのよ、×××の事務所のお弁当だから、すごいと思うよ」

「すごいって、何弁当?おせち?栗きんとんもでるの?!」

それは…、あ、そうだ!「ごめん、お弁当じゃなくて、間違い間違い、カップ麺だったわ」

「…、カップ麺?、…、いいねいいね、ほんとう?」

ふみは動揺し始めて。
ふみは、カップ麺が憧れなんだ。カップ麺や、マグドナルドが憧れなんだ、食べさせてもらえないから。


頑張れ!カップ麺、ふみに勝て!


わたしは小学校の時に、何とかの成立何十年の盛典に、出ました。
まずパレードで踊りながら、長い長い通り(一応大きい町だ)で、衣装を着て、踊りながら進行、最後は大きな会場でマスゲーム、持っているいろんな色な板を、笛の音で素早く持ち上げ、捲り、巨大なひまわりなどの模様を作り、丸一日(それまでの稽古は何ヶ月)、くたびれたが、記憶に残り、忘れられない思い出に。


ふみもきっと、いい思い出になるのに。

カップ麺、どうか、お力を貸して〜



夜、涼風の中、ベランダで、大好きな空を眺めることに。

夜空で遊んでいる子トトロに出会いました。