色
季節は「玄鳥至」、ツバメが来る季節になりました。
好きなツバメの帯の登場です。
今日はふみの学校の始業式です。
ランドセルではなく、普通の手提げで、と知らせに書いてありまして、
ふみに水色の手提げを用意し、中には、上履きと筆箱をちゃんと入れました。
朝御飯を食べて、歯を磨いて、校帽をかぶって、久しぶりに登校するふみを眺めて、
入院や手術、まるで夢だったかのように、遠くて、不鮮明で、
あっという間にすぎてしまいましたね〜
あれ?目の前のふみ、なんやら忙しい。
水色の手提げの中身を取りだし、
黒の手提げの中身を取りだし、
水色の手提げの中身を、
黒の手提げの中へ入れて。
もう出なくちゃならないのに、なんでこんなことするのでしょう。
いつもこうなの、出掛けようとすると、急にこうとかああとかでやりだすのよ、ふみは。
急ぐ時にこうだと、ほんとうに困ります。
ふみを説教。
説教しようと、いろいろ思い出して、爆発。
「水色が女の子の使う色だから」って、ふみが言う。
誰が決めたの?とんでもないよ、水色は、清潔感溢れる少年の色じゃない!
おかしいよ。
ふみは黙って黒の手提げを持って、ショボンとして、学校へ。
わたしはお仕事へ。
今日は、ふみの始業式で、久しぶりに歩いて登校、なのに、朝から…。
手提げ、どうでもいいのに、しかも本人が自分で入れ替えしたのに、わたし、怒ることがないのになぁ〜って、ぼーっとして。
色の好き嫌いは、どうしようもないことなのに。
小さい時、今のふみより小さい時のわたし、
夏、ある日、母親が半袖のシャツを見せてくれました。
そのわたしのための半袖のシャツは、淡いブラウンと淡いベージュのチェック柄で、きちんとした形の襟、生地もいいもののシャツでした。
小さい時のわたしには、そのブラウンとベージュのチェック柄は、男の子の色とのイメージでした。
母がどう言っても、わたしは嫌で嫌で、どうしても素直に着ることができませんでした。
仕方なく母は、わたしの二歳上の従兄にあげようとしたら、
従兄は、こんな色と形のは明らかに女の子のもので、要らないと、着てくれません。
従兄との間、そのシャツは行ったり来たり。結局うちの箪笥に戻りました。
「いいものなのに」と母は思い出したたびに言うのです。
嫌だ、こんな色、わたしは男の子じゃないから。一々説得されるのは、うんざりになって。
そうだ、全部このシャツが悪いんだ。このシャツを着れなくなるものにすればいいんだ。
うちに誰もいない時に、わたしはそのシャツを箪笥から出して、穴をあけることにしました。
それもハサミではなく、歯で。
歯だったら、わたしの怒りを全て表現しきる気がしました。
目立つ場所の肩あたりを選び、わたしは一生懸命かじります。
しっかりした生地で、なかなか穴になりません。
今度は上下の歯を右左交差して摩擦させ、前後させ、
穴、あけました。
わたしはまたそのシャツを元通りに畳み、箪笥に戻しました。
しばらく経って、諦めた母は、シャツをどなたかに差し上げようと、
その肩の穴に気付き、びっくりして、すぐ歯でやったとわかりました。
(その時に、わたしはやたらと歯という武器を使うのです。)
母は怒るより、ただびっくりして、
「…着ないならかまわないけど、こうしたら、もう誰も着れなくなるね。…、よっぽと嫌だったかしらね、…」
しまいに、「鼠年の生まれじゃないのに、歯で穴をあけるなんて」と母が。
ブラウンとベージュのチェック柄の、今思うと、とても上品なシャツでした。
ふみにあやまりました。
水色を使いたくないのは、わかりました。とも。
「うん、別にいいよ」とふみが。
ふみの担任の先生は換わりまして、2、30代の女性の先生です。
ふみのものを整理していたら、その先生からの葉書が出てきました。
ふみたちは学校で郵便をやっていて、葉書は自製、配達は生徒。
その時のかしら。
なかなかいい先生ですね。
明日も給食がなく、お弁当を学童に届けます。
明日は、普通のお弁当ではなく、カレーに。
せっかくわたしはそれ用の魔法瓶を買ってありますから。
ふみは、躊躇してます、そうする人いないから、って。