金輪際
「ふみちゃん、10月のハイキング、う…ん、ほんとうは、ふみに言わなくてもよかったことだけど、でも、言わないと、ややこしくなると嫌だから」
「なに?」
「Yさんのことだけど、ママ、とても苦手な方で…」
「Yさん?あの綿毛を新しいウィルスと言う人?あの人はちょっとおかしいよ、だって、綿毛なのに、“窓から白いふわふわのが入ってきて、あれは新しいウィルスだよ”とか言って、ウィルスなんて、目で見えるわけないじゃない、おかしいよ」
あったあった、Yさんがずっとふみに、新種のウィルスは世の中に多く、自宅にも普通に入り込むぐらい、なので安易にインコなんぞ飼うもんじゃない、とお説教。ありましたね。
でも、わたしがYさんが苦手なのは、こんな、のほほんの話題ではなくて、
Yさんの強引さや、きつさに、苦痛を感じるのです。
普段は、御挨拶はするものの、できるだけ避けるようにしております。
君子は危うきに近寄らず。
それでも時々、Yさんによる飛び火の被害を受けるのです。
「ふみちゃん、とにかく難しい方だから、できるだけ敬遠したいから、御挨拶はきちんとして、あとは離れてね、でないとなにを言われるかわからないから」
「…」
「ほんとうだから、とにかくママの言うこと聞いてね、真剣に聞いてる?ほんとうよ。実はついこの前も、目の前で嫌なことを言われたのよ」
「なにを?どんなこと言われたの?教えて」
「教えない、あんな品のないことを、もう一回自分の口から言うなんて、あり得ないから。あの方と同じレベルには立ちたくないから。」
「え〜、ひどいこと言ったんだ、どうして返さないの!? ぼくなら、“もうコンリンザイ、あなたに何も言われたくないから、もう言うのやめて、コンリンザイやめて、わかった!?”って、言えばいいのに」
「そんなの通用する人間ではないから、みんなYさんのことを我慢してるのよ、ママも同じ、我慢するのよ、無視すればいいのよ、敬遠すればいいのよ」
とは言え、ストレスでたちまち扁桃腺が腫れてましたからね。情けないこと。
しかし“金輪際”なんて、ふみ、すらすらと使いこなして、面白い。
それはもちろん、できれば、その方の口から、金輪際わたしの名前の頭文字も発してほしくないが…。
夕方、ふみと振り替えの一回分の水泳に。
ふみ、やたらと歩幅小さく、旅館の女将かと思うぐらいの歩き方して、
その訳は、学校がみんなに歩数計を貸して、毎日記入するキャンペーンをやっています。
「ずるしちゃダメよ」
「ずるしてないよ、ずるしてる子は、手で振ってるもん」
ふみ、そんな歩き方しなくたって、毎日一万歩は越えてますよ。