虫が去る

夕べ、風呂上がりに、わたし、タオルが巻いてる後頭部か耳辺りから、“ギ~~~”、と、“ジ~~~”の音がして、びっくりして振り向いたら、なにもいない。

けどすぐまたギ~~~と鳴る。
誰?!なに?!
言っても、ふみとパパは、髪の水の音じゃない?とか、床が鳴った音よ、とか、
違う違う、明らかに鳴ってるもの、水でも床でもないもの。

パパが「耳に水が入ったから、その音よ、きっと」
違う違う、泳げないけれど耳に水が入ったことはありますよ、こんな感じじゃないもの。

再三に、わたしの頭の後ろか肩を見るようにと頼むけど、
再三に「耳に水が入ったんだよ」と答えるパパ。

「鳴った、また鳴った、いるいる、なにかいる!」とわたしが。
爆笑するふみ。

いやだ!まるでわたしがヤバイ人じゃないの、幻聴?!まさか。
よくわからないけど、幻聴って、儚い音じゃないの?こんなくっきりした音じゃないはずだわ。

ジ~~~、
ぎゃ!!

あっ!わたしの後頭部から、何かが飛び去ったわ!
「あ!とんだ、とんだ、虫よ虫!」わたしの声が荒れてるの自分でもわかる。
ふみ、もう腹がよじれるように笑うのです。

なになに?幻聴だけではなく、幻視まで?!

そのとき、蛍光灯に、黒い影が向かって行って、止まって、ジ~~ジ~~と鳴くのです。

アブのような、中型アブだわ!

ほらね、いたでしょう、だから言ったでしょう、鳴ってるよ、いるよって、どうしてわたしを信じてくれないの?耳の中の音なんて、そんなばなな。

パパがアブをティッシュで捕まえ、外に放しました。

ああ〜よかった、あわや、わたし自身も自分がヤバイ人になったと思ったよ。

アブ、きっと洗濯物に、たぶんタオルにくっついて入ってきたに違いないです。

季節外れの、アブ。見えるところにいてくれて、ありがとう。






今日ふみの下校は、だいぶ遅かったです。
夜、塾へお迎えに行ったパパと帰ってきたふみ、まず出したのは、少し前に受けた「国語力検定」の結果です。
2級で、小6前半のレベルだって。
よかったね、ふみ。


国語に関しては、ふみが特別勉強したには見えないです。
やはり、国語が好きだからかな、本が好きというか。

ふみに、下校が遅いワケもを聞いたんです。
放課後、先生はふみと、Sくんを残るようにと伝え、三人で教室で話し合っていたそうです。

何回も衝突したSくん、ふみと、お互いの言い分を話すようにと先生が。

5年に入ってから、ふみは、ずっとSくんにちょっかいを出されて、足でふみをひっかけたり、急にべとべと触ってきたり、殴りかかってきたり、
ふみは言葉では返したりしましたが、一回も手をだしていないそうです、「ぼくはボクシングをやってるから、本気にパンチをだすと、あいつ、耐えられないと思うよ」

そうでしょうね。つい昨日、予防接種を受けるとき、H先生がふみの上腕を見て、「え?すごいな、どうなってるの?なにをやってる?肩幅もすごいね」とびっくりなさって。

Sくんは、仕返ししないふみに、ますますの頻度で、ちょっかいを出してくるのだそうです。

ふみは何回も先生に話したそうです。だからでしょうね、今日の場を設けて。

Sくんは、ふみに恨みがあると。いろいろやったことは、全部ふみへの復讐と。

「復讐?何の恨み?ふみはなんかしたの?」とわたしが、

「するわけないじゃん!なんか、昔、ぼくと喧嘩したってSくんが言うの。冗談じゃないよ、喧嘩は両成敗じゃん、一方的なことがあるか!Sくんの話し、繋いでみれば、矛盾だらけ、つじつま合わないし、意味わかんない。先生もぼくも、黙って聞いてあげたけど、聞いてないよ実は、だってなにを言ってんの意味わかんないもん、しかもまた泣きそうになって、情緒不安定だよ。最後“俺は、自分を抑えられない、コントロールできない”みたいなこと言って。ぼくは、いくつかのことをSくんに問い詰めて、全然答えられないもん。先生は、まあまあまあ、みたいな感じで、とにかく二人は距離を置いてみたいな感じで」

「たいへんだったね」

「ぼく、自分でもよく我慢したと思うよ、ずっとガマンした、一回も手をだしてない。前のぼくなら、とうに手を出したと思うけど」

「えらいね、ふみ。でも今日話し合って、もう、Sくんと普通に友達になれる?」
「ときが必要だね、5年いっぱいは無理だろう。6年になったら、わからないけど、気持ち的に相当無理、明日の家庭科、調理のとき、Sくんと同じ組、もう最悪」
「心でそう思ってなくても、口だけでも、Sくんを褒めてみたら?油揚げを切るのうまいね、みたいな」
「心でそう思ってなくても?」
「そう」
「オトナみたいに?“部長すごいですね!さすがですね!”みたいに?」
ははは「そう」
「どうかな、たぶん無理」