万両

朝、ふみは、いつものように学校へ行きました。

今日も寒いです。風が冷たくて、北風は。



昼間は仕事をしながら、ふみのことを案じておりました。
解決したのでしょうか、先生に正しく理解して貰えたのでしょうか、鎮めたのでしょうか、まだまだ収まらないのでしょうか。



ふみの下校メールが届きました。いつも通りです。


ふみは昼間、副校長先生(女性)に呼ばれたそうです。

ふみは、「副校長先生はY先生と同じ。ぼくの話を平気で遮って、でも自分が話すときにぼくが口を出すと、全くダメで、結局先生はみんな一緒だよ。自分が一方的にしゃべって、人の話に聞く耳持たない、僕が、Y先生の言葉と態度を変えてほしいと言ったら、“それはあなたの言うことじゃない”って言われた、もう、面倒くさい、もういいよ」と。


他の男の子たちは、6年の担任に呼ばれて、話し合い、
ふみは、副校長先生に呼ばれて、話し合い、首謀扱いかな。


わたしは正直、先生たちに、とうにあきらめております。

残り一年あまり、波風立たずに過ごせたら、と思っております。

Y先生は、ご自分の言葉遣いが悪いと認めないようですが、常識に考えると、生徒の前に言葉を気を付けている先生なら、そう咄嗟に「耳悪いの?!」って出ますか、理解に苦しみます。

だからわたしは、今までの数々のできことで、とうにあきらめています。だからふみの受験を応援しています。


夕方、わたしは担任のK先生と電話で長く話しました。
ふみが納得していないことと、特にY先生の言葉遣いを改善するようにと、ふみが言ったら、副校長先生に“それはあなたの言うことじゃない”に対して、ふみは納得していないことをお伝えしました。

それからわたしは、自分の考えを述べました。
「5年生になってから、子供たちは著しく成長していることを、日々感じております。一人前扱いしてもらいたい、尊重してもらいたい、せめて話を遮らないで、最後まで聞いてもらいたい、それは本当にすごく感じます。なのでわたしは、子供の話をできるだけ聞いてあげることを努力しております。先生たち教育者は、われわれ保護者より、もっとそれを御存じではないかなって思っています、でも、今回は、そうでもないようで、とても残念に思います。
5年生をいつまでも小さい子扱いするというのでは、もう対応しきれないではないでしょうか。
今回、子供たちが、一人の教師の言葉遣いを直してほしいというのは、無理な要求だとわたしは思いません。
Y先生は、“何月何日と言えないなら、証拠にならない”とおっしゃいますけれど、授業中、生徒に“耳悪いの?”と言えるのなら、普段の言葉遣いは想像つきます。

もちろん、子供たちはそんな整理した言葉や順序よく文章のように喋れないのかもしれないですが、だからこそ、そんな中から、子供たちが伝えようとするメッセージを読み取るのは、大人のやるべきことではないのかって思います。

ふみは帰ってきてからすぐ塾に行きまして、長く話せなかったのですが、でもわたしは、正直、今のところ、ふみにどう話せばいいのか、わからないです。“ふみは正しいよ、か、いいえ、ふみは悪いよ、か”、どう話せばいいのか、わかりません。心の中では、ふみたちが、そんなに悪いことをやったと思っておりません。だけど先生たちは、それは間違いだとおっしゃるのですから、それでは、親として、子供に向かって言うべき適切な言葉が、なかなか見つかりません。

保健の先生に関して、今回だけではなく、前々から、ふみは、多少の擦り傷とかでは、誰も保健室に行きたくない、あの先生の言葉や態度を我慢するの面倒だからって言っていました。なのに、とうとう今日みたいな事態になってしまいまして、わたしは残念に思います」



K先生は、「自分が、もっと子供たちの話をじっくり聞いてあげられていなくて、申し訳ありません」、と謝っていました。
「ふみくんの気持ちも充分わかってあげられなくて、申し訳ありませんでした。お話を聞いて今、私は反省しています。本当に子どもたち一人一人に言いたいこと、もっと聞いてあげればよかったと、反省しています。明日にでも、ふみくんともう一度話をしてみます」と。

ふみはもうメンドクサくなった、と言ってますけどね。


しかしわたし、あきらめてるあきらめてると言ってるけど、やはり、先生たちを信じていたのでしょうか、昨日は。だから正しく解決することを期待していたのでしょうね。


子供たちも言葉遣いが悪いのかもしれない、目上の方に対して敬意が足りないのかもしれない、だからって、その小さな正義感を頭から抹殺しようとする、抑えようとする、こんなやり方に、ほんとうに落胆しました。



塾から帰ってきたふみに、「K先生は、明日にでも、ふみと、もういっぺん話をするって。」
「なんでわかる?」
「ママが電話をしたから」
「なんで?」
「ママもたまに自分の意見を言うわよ、ふみの味方だから」
ふみ急に、にこにこして「ママ、そういうモンスターペアレンツにはならないでね」
「なるわけないじゃない、ママは普通よりもガマンするほうだよ」
「まあね」
「K先生、明日にでももう一度ふみくんと話し合いたいって」
「ええ〜、それはいいことだ、でも、もう面倒くさいや」


副校長先生は何をおっしゃってたのかと、聞いてびっくり、
「(Y先生に)言われたH君がなんも言わないのに、なんであなたが文句言うのよ」
と。

ふみがわたしに「ぼく一応まだ学級委員だよ、イジメゼロ運動もやってるし、イジメを気付いたら、止めて、先生に通報しないといけないんだよ、なのに、言われた本人さえ文句ないなら、ほかの人は言わなくていいってことになるじゃん!そんなのあり?」

「そう副校長先生に言ったの?」

「全然聞いてもらえない、ぼくが言おうとしたら、副校長先生が、“いいからもう”って、ぼくが“なんで自分ばかり喋っていいのに、人の話を聞かないですか”と聞いたら、副校長先生が“その話は重要じゃないから、聞かなくていい!”だって」


は?驚きましたわたしは。いくらとうに諦めたとは言え、やはり落胆します、重ね重ね、落胆。

副校長先生、外見もそんな感じです、髪は適当に後で縛ってますが、人を見かけたら、いつも慌てて手で頭を直したりします。身だしなみ、大丈夫かしら、いつも思ってしまいます。
やはり、統一してますね。

副校長先生がふみに「あなたはK先生に意見を言うんじゃなくて、ただの文句でしょ、ただ文句を言いたいだけでしょう」とも言ったそうです。

ふみは、明日、もしK先生か、副校長先生にまた呼ばれましたら、「正義はなんですか、教えてください」と聞くんだそうです。


ふみは、「でもK先生は、ちょっとぼくのことも考えてくれてるなって思った」と、ふみが副校長先生に呼ばれてなかなか帰って来ないとき、K先生に言われて、クラス全員は体育授業に行かず、ふみを待っていたって。
「せっかく待ってくれて、体育に行こうとしてたのに、ぼく、また副校長先生に呼ばれて、もううんざり、また一方的にわわわと言われて、もう、先生たちはみんな一緒だよ、どの先生も同じ。Uくんなんて、Y先生にも、副校長先生にも、話すらしてもらえないだよ、“いいからいいから、あなたはいいから”みたいな、Uくん、かわいそうだよ、不公平だろう、Uくん、ぼくの友達だよ」


もう、どうなっているのか。



万両、いたるたところで見かけるようになって、似てるような赤い実は、ソヨゴというのだと、知人が教えてくれました。