お菓子の袋
珈琲の香りをするお線香です。
珈琲の香り、そうね、炒る時の香りかしら、強いて言えば。
朝は暖かく穏やかです。
けど、昼に近くなると、風が出てきて、風がどんどん強くなって、この南風は、春二番なんですって。
時折土埃を巻き上がって、いくら暖かい南風でも、強風はいやだわ。
そんな強風の中、Fさんがお見えになりました。
「青森でなにかあったわけじゃないよ、休みもらってきたからね」とFさんは真っ先にそれをおっしゃって。
誰も何も言ってなくてよ。
しかしFさんと喋るのは、だんだん疲労を感じて参ります。
簡単で言えば、あまりにも世界が違って、理解まで行く前に、知ることさえ、とてもエネルギが必要と感じます。
「いわゆる“シアワセになりたい”とか、考えたことがない。というか、シアワセは何かとも、考えたことない、たぶん、今の俺は、若い時の俺が憧れの通りじゃないかな。つまり誰の言うことも聞かない、ガマンは絶対しない、全て自分の思う通りしかやらない。やあ〜、考えられないね、そういう真面目な暮らしは、サラリーマンとか、ムリムリ。人間はわがままで生きていないと。ガマンはよくないよ、よくない、思うままに生きてないと。周りを慣れていくじゃなくて、いずれ周りは慣れてくるから、俺みたいな人間に、ハハハハ」
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「おやじと喧嘩して、おやじを殴って出てきた、昔から合わない、あいつ酒乱だよ、しょうがない」
なんということ。
「感情?そりゃあるよ、なに言ってんの、“すげーな”とか、思ったりするよ俺も」
それって、感情と言うのかしら。
あぁ〜、頭が痛くなってきます。なんなの?目の前のこの方は。
とても理解のできる世界ではありません。
「やはり、我慢はしないといけないじゃありません?みんなは、どっちかというと、我慢してるときのほうが多いじゃないかしら、みんなは」
「ガマン?ガマンしていいことあんの?ないよ」
「我慢してみたらいかが?“あっ、やっぱり我慢してよかった、正解だった”、との場合が多いと思いますよ。日ごろ我慢してます、みんなは、いろんなことを」
「そうかー、ガマンしてるのか、ほんとう?うん、ガマン、うん。…、」とFさんは急に声を上げて「ハサミを使うっすか!へぇ〜、こう、手で破ればいいじゃん!」
わたしの、ハサミでお菓子の袋を開ける手は止まりました。
Fさんは巨大な袋のようなバッグをしょって、去りました。急に振り向いて「ガマンしろなんか言われて、どう歩くのもわからなくなったよ、ハハハ」
ひどく疲れました。