先生
先生は、もう、長くありません。とのことは、予想してるはずですが、聞きたくありませんでした。
治療も、食事も、先生は自ら拒否したそうです。
まもなく、緩和ケアの病院に移され、最後の日々を。
「山があって、川があって、自然の中ですから、先生、喜びますよ」とFさんが。
先生は、時折意識が戻り、「ありがとう」、「すみません」とおっしゃるそうです。
ありがとう
すみません
先生らしいですね。
Fさんが、お車で、Tさんとお見舞いに行って来ると、おっしゃって、
“わたくしも”とは、言えませんでした。
わたし、先生の最期に、お会いしたいのでしょうか。わかりません。
目を閉じれば、先生の微笑む様子が浮かびまして、それで充分のような気もします。少なくとも今は。
わたしは、悲しんでいるのかも、わかりません。悲しむのは、失礼になるような気もします。
まだ自分の気持ちが、よくわかっておりません。
先生、わたしの気持ちが整理するまで、待っててくださいませんか。
夜、一人で糠を混ぜ、玉子を漬けました。