敬礼
今朝6時少し前に、外から急にザァーという雨音が聞こえて、急いで窓を開けて見たら、空と地面の間に、まるで白い暖簾がかかってるようでした。
慌てて洗濯物を取り込んで、安心してから、窓際でしばらくこの前触れのない雨を眺めて、「梅雨らしくない雨ですね」とつぶやきました。
通り雨のようで、あっという間に晴れ間が覗き込みます。
朝日を背負って、ふみと手を繋いで登園道へ。
いつもより少し早いですが、送りたい手紙がありまして、ふみは、爪先立ちして、それをポストに投函するのが楽しみなんです。
例の警備の警察官たちは、ちょうど交代の時間で、8人ぐらいがいつもの場所にいました。
ふみはこの間まで「おまわりしゃん」を見ると、急にしゃがんで、地面を指さして
「あれっ?」とか言って、緊張と照れを隠したりしましたけど(指のさきには、蟻しゃんも、だんごむしもいません)
昨日あたりから、だいぶ慣れてきたようです。
今日はご挨拶はできなかったんですけど、ちゃんと手を振ってました。
警察官たちはお互い冗談まじりで笑っていました。
「この子知ってるのか?なれなれしいなおまえは」
「毎日会ってますよ、な?ぼく。はい、敬礼」とそのメガネの若い警官がふみに敬礼をしてくれました。
他の警官はさらに笑って、そしてあっちこっちから敬礼が…
私も笑いました、笑って挨拶をしました。
それからふみはずっと黙っていました。どうしたのかなって顔を見てみると、なんやらふみは右手をおでこあたりに当てて、また下ろして、また上げてとしてます。顔は真剣そのものです。
「ふみ、なにしてるの?」と聞くと、ふみは私を仰ぎ見て
「ケイレイ!」と答えました。
敬礼っか、なるほど、でもふみの敬礼は、なぜか手首が捻って、手のひらが前に向いてます。
ふみの真面目な顔を見て笑いたい気持ちを抑えて、私は日傘を置いて、ふみの前にしゃがんで、敬礼の形を直してあげました。
ふみは珍しく終始真剣な表情でした。「敬礼」もだんだんサマになってきました。
今度おまわりしゃんと会った時、ふみはちゃんと敬礼ができるかな。