エプロンのQ君


東京もだいぶ寒くなってきました。特に朝晩、冷え込んできて、厚めの布団をだした。

ふみと手を繋いで登園道、「ふみ、寒くない?」と何回も聞いてしまう。
「うん。寒くない」とふみは元気に答える。
そうでしょうね。ニ、三歩歩くとジャンプ一回だもの、暖かくなるわ。


屋外に置いてる金魚鉢に、ふみはいつものように近寄る。
金魚って、寒さに平気ね。
ベタなんか、水中ヒーターがないと、今の天気じゃ死んでしまう。
そういえば、水槽のメスベタを隔離している網に、メダカ一匹を入れてあげた。オスベタは今、毎日その網の中を窺いながら、網の枠をグルグルと回って泳ぐ。怒りに満ちているみたい。


「ママ、これ写真とって」とふみが指さす先は、蛙の置物。
金魚鉢のそばで陶器の蛙が片手で頭を支え、横になってくつろいでる。半分しか開いてない目が、なんとも言えない、リラックスしている蛙さん。ふみも気に入ったんだ。
「ごめん。カメラ今日持ってないんだ」
しかしふみはもう私が何を撮りそうなのか、つかんでるね。


Sさんと会った。ふみは帽子を取って、深々とおじぎ。「おはようごじゃいまし」
Sさんはとても喜んでた様子。
過ぎてしまって、ふみは「お菓子ありがとう言わなかったね」と悔しそうで言った。


何日か前、Sさんからお土産のお菓子をもらって、ふみは食べながら、今度Sさんと会う時お礼を言うと話してたから。


保育園に着いて、先にトイレまで連れて行った。
ふみは上手に立っておしっこしてる時、Q君とNちゃんが走って入ってきた。
「ふみ君おはよう、新幹線、遊ぼう」とふみと並んでニコニコおしっこしながら誘ってるのはQ君。
Nちゃんは世話焼きなんだ。今日もふみたちを監督し、「てて洗った?泡も付けた?」と一々指導する。女の子はやっぱりしっかりしてる。


かわいい顔をしているQ君は、ふみの大の仲良しなんだ。


「ママ、今日は外堀公園行ったの」
「そう?タンポポ組だけ?ふみちゃんは誰とおてて繋いで行ったの?」
「Qちゃん!」


「ママ今日Qちゃんと玄関行ったよ」
「そう?だめじゃない。もう勝手に玄関に行っちゃだめって先生に言われたでしょう?」
「うん。Q、玄関行こうって、ふみちゃんが言ったの」


こういう会話はよくある。


Q君は、いつも保育園の予備用の女の子のスカートを、ズボンの上に履く。
さらにエプロンを付けるのも大好きみたい。
よくQ君がピンクのエプロンを付けて、人形をおんぶしてる姿を見かける。


ある日、黄色い生地に花模様のエプロンを付けて、人形を背中に縛ってるQ君を見て、L君の中国人のお母さんが「Qちゃんかわいいね、にこにこいつも、やばりおんなのこいいね」と言った。
「男の子ですよ、Qちゃんは」と言ったら、
「あ"、なにぃ?おとこのこ?ずーとおんなのこだとおもだ」と相当驚いてる。
話が聞こえた先生が、「お母さんの普段の様子をマネしていると思う、Qちゃんは。そういうこともとても大事です」とほほ笑んで言った。
立派な先生だと思った。


Qちゃんの笑顔がとってもやさしい。乱暴なこともなく、短気もなく、静かに微笑む場面が多い。


ある日、ふみは何かを思い出したようで、「ふみ君、ちゅーしていい?とQちゃんが言うの、いいよ〜とふみが言うの」
「そう?Qちゃんがチューしてくれるの?いいね〜どこに?」
「口に!」
「わ〜Qちゃんは本当にふみが好きに、よかったね、いい友達がいて」
「うん。やだよぅーだとふみも言うよ」
「そう?Qちゃんがふみをチューしたいっていうのに?やだって、Qちゃんがかわいそうじゃない」
「Qちゃん、U君にもチューするよ」
「そう、Qちゃんチュー好きなんだ」
「ふみちゃんも好きよ」
「ふみはママ好き?」
「ドアイ好き。」
「どれぐらい好き?」
「こ〜んな長い好き」と、ふみは両腕をいっぱいいっぱい広げた。