ニワトリ
快晴。風で空気が余計に乾いてる。
今日からまた三連休なんだ。
赤坂見附の日枝神社に、ニワトリさんを見に行こうとふみに告げたら、ふみは喜んで、「シャンゼリゼ」を歌いながら、おもちゃを片付けてた。
「お‐シャンゼリゼ、お‐シャンゼリゼ、いつも、なにか、素敵な、ことが、あなたを待つのシャンゼリゼ…」
半年近く前に、ふみとシャンソン歌手パトリック・ヌジェの生歌を聞いたことがあった。なじみの曲がいっぱいで、パトリック・ヌジェの素敵な歌い声とユーモアのあるトーク、とても魅力的だった。
ふみはすぐそのシャンゼリゼを覚えた。
夏あたりかな、一時「お‐じゃりがに(ザリガニ)、お‐じゃりがに…」と替え歌を口ずさむことに熱中していた。
学習院初等科の、学生帽をかぶり制服を着た男子生徒とすれ違って、ふみは「なんのおまわりしゃん?」とつぶやいた。
おまわりさんじゃないってば(^o^)、学生帽のせいかな、おまわりさんに見えたのは。
地下鉄に乗って、赤坂見附で降りて、日枝神社へ向かう。
「知らない街だね」とふみは言う。
ふみは行ったことのないところに行くと、いつもこう言う。
「ね、知らない街だね。知らない街っていいね」
「うん。ふみも知らない街好き」
サラリーマン風の男性二人、道端に立って、「すみません。羽田空港はどっちですか?」と聞いてきた。
「羽田空港?!えっ?」
「羽田空港。どっち方面ですか?」
「電車で行くならお教えすることができますけど…」
「あ、そうですか。タクシーで行きたいから」
離れてから、ふみずっと「なに聞いてるの?空港?なに?タクシーで行くの?」と不思議でしょうがないみたい。
しかし言われて見ると自分の方向感覚やっぱりだめだとわかる。
日枝神社に着いた。
これはどう見ても桜。桜にしか見えないね。もう少しで立冬なのに。
神社の横の階段から入ることにした。
真っ赤な鳥居のトンネル。
階段は長くて暗い。ふみは少し上ったら、怖くなったみたいで、「ママも上がって、ママと一緒に上がる」。
長い階段、一気に途中まで昇った。
「ママ、何の匂い?」
「銀杏ねこれは」
「新宿御苑もあったね」
あったあった、ふみは細かいことをわりとよく覚えてる。
ようこそ、本殿はあっちだよ
お幸せを秘かにお裾わけしてもらい、横のニワトリの鶏舎に行く。
以前来た時は、見事な鳴き声を聞かせてもらった。「ぐ〜〜〜〜〜…」と聞き間違いかと思うほど長かった。
ふみはずっと「にわとりしゃん、ご飯食べてよ。水も飲んでよ。ママも水飲んでって言ってあげて」
と、その時、餌の入れ物の裏に玉子一個発見。
「あ、玉子、玉子だよ。にわとりしゃん、玉子あるよ、食べて、食べてよ、ママも言ってあげて、玉子…」
結局どのニワトリも鳴かなかった。残念。
パパにお守りを買って、また赤い鳥居のトンネルをくぐって帰る。
「パパおしょいね、ゆやけこやけなのにね」、夕方、パパの帰りを待つふみの呟きだった。