夕暮れのお散歩

パパ今日はお仕事、家ではまたふみとママだけになった。


お片付けしていたら、ふみが神妙な顔をして、指に小さい白い羽を握って、
「ママ、見て、何これ、カラスしゃん来たの?」

私のダウンコートから出てきたものだ。

「そうよ、カラスさんが来たわよ。玩具を遊んだあと、お片付けしていない子いないかい?って、探しに来てた。カラスは散らかってるところが大好きだから」
「ふみちゃんお片付けしたよ、昨日パパとしてたよ、ふみ、ちゃんとお手伝いしたよ」


そうね。最近のふみは結構お手伝いをしたりしてくれる。
加湿器のタンクを運んでくれたり、買い物袋を持ってくれたり、入浴剤を風呂に入れたり、ゴミの日は、ふみはもっと忙しい、「ふみが持つの、ふみが…」とゴミを置場に置くのが大好き。


夕べ寝る前に、ふみは敷いたお布団を触らせない。
「何入ってるの?」と聞いたら、ふみはニヤニヤ。
布団の中をのぞいて見たら、たくさんの本だった。
ふみが普段、大事に大事にしてる働く車の本や、電車の本。

「なんでお布団に入れるの?」と聞いたら、
「だって、寒いんだもん。暖めてあげてるの、ふみちゃんは」


本を置く畳の部屋は確かに寒い。



午前、早い時間に、近所のスーパーに、ふみとお買いものに出かけた。
小さい公園のそばを通って。仮園舎行く前に、ふみの保育園はよくここで遊んでた。
ふみとその時の思い出の話しをしてる時、上の方から、
「いいわね〜」との声が聞こえた。
ふみと立ち止まって仰ぎ見たら、二階の開いてる窓から、見知らぬおばあちゃんの顔が見えた、
「おはようございます」と挨拶したら、ふみも「おはようごじゃいます」とおじきまでした。
「あらぁ〜いい子だね、本当にいい子だ」
ふみと向かい合って笑顔を交わした。
また歩き出した。うしろからそのおばあちゃんの声がまた聞こえる、
「いい子ね〜本当に」と。


スーパーに入った途端、ふみは手早く買い物籠を手にして、
「ママ、牛乳を買わないとね」。ふみは牛乳やチーズや乳製品が大好き。


「ママが持ってあげようか」、買い物籠はふみには大きすぎるから。
でもふみは「ふみが持つの、ふみ頑張る」と買い物籠を離さない。


ちょっと見てない隙に、ふみはもう牛乳コーナーに行ってる、慌てて行ってみたら、籠の中にすでに一本の牛乳が入ってた。
「えっ?勝手に牛乳を入れたの?」
ふみはケラケラと笑う。
へぇ〜その瞬間見たかったな。やるね、ふみ。


いろいろ買って、ふみが中の小さい袋を持っててくれた。


日なたでは思わないが、坂道の日蔭は、やっぱり寒いや。


ふみは急に
「寒いよぉ〜助けて」と叫んだ。
助けて?初めてふみが言うのを聞いた。思わず笑ってしまって。
ふみと冷たい風の中で、坂道を登りながら、「助けて〜」「たすけてぇ」と言って、声を上げて笑った。ちょうど誰も通ってなくてよかった、でないと何事かと思うでしょうね。


あれ?道端のあちらこちらのゴミ置場にゴミが置いてあるわ。
今日は日曜日なのに、ゴミの日じゃないはず。やっぱりお正月の間、ゴミを収集してくれないから、とうとう皆様我慢できなくなったのかしらねと思い、でもよく見たら、どうもゴミは不燃ごみだけのようだ。
ゴミ収集の知らせの張り紙をもう一度よく読んだら、今日は年始の初めての不燃ゴミの日だ。
あらいけない、全然知らなかった。
「ふみ走ろう、ゴミを出さないと、ゴミ収集車来る前に」
ふみは私と手を繋いだまま走りだした。


いつも挨拶はするけど名前を知らない近所の男性と会った。
小学生ぐらいの娘さんと二人暮らしのようだ。
一度、近くの神社のお祭りに、奥さん(前妻?)らしき女性と一家三人でいるのを見かけたことがあって、擦れ違う短い時間だが、二人は口論してた。
奥さんは長いパーマで、焼きトウモロコシをかじってた。


買い物袋を抱えて、小走りしているふみと私を、男性は少し怪訝な顔をしてたのを見て、
「今日が燃えないゴミを出せると知らなくて…」と説明した。
「ああ、そう」と男性は笑った。


うちに着いて、ふみを玄関に立たせて、
「靴脱がなくていいから、すぐまたでるから」
「は〜い」とふみの目は、猛スピードで動く私を追う。


買ったものを下ろし、生のものを冷蔵庫に、またベランダに出て、発泡スチールや瓶などの燃えないゴミを持って、玄関へ。
「ふみが持つふみが持つ」、ふみはゴミを捨てるとまたやる気満々。
大きい発泡スチールの箱をふみに渡し、ブーツのファスナーを閉めながら鍵をかける。
だって、やっと待ちに待ったゴミの日だもの、間に合わなかったら悔しいよ。


置場のゴミたちはまだそのままだった。
よかった〜間に合って。


ふみと、その足で、ちょっと離れている薬局に生活用品のお買物へ。


向こうからゴミ収集車ずっと来なかった。なんだ、あんなに走らなくてもよかったのに。
後ろから自転車の音。
ふみといつものように一列になって道を譲る。

「あの、さっき坊やに渡したかったけど…」
さっきの男性だった。手にカラフルの小さいポチ袋を持って、自転車の後ろに小学生ぐらいの娘さんが乗ってた。
「え?なん、なんですか?」


「お年玉、千円入ってる」と女の子がニコニコと言った。

「え?!いいんですか?すみません、あ、ありがとうございます」。心外だったから、なにを言ったらいいのかと(-_-)
「ありがとうごじゃいます!」ふみは大きい声でお礼を言った。


去った自転車を見送って、ふみはお年玉の袋を握って、
「パパに教えないとね。またお年玉もらった」と。
「うん、よかったね…」
よかったのかな、というか、いいのかな。


このお正月、ふみはいろんな方からお年玉を頂いた。
ふみの名義で通帳を作ることできるなら、たいした金額ではないけど、今から貯めてあげたいね。うん、来週にでも銀行で聞いてみる。まさか3歳児も印鑑とか?興味あるわ。

薬局と、その隣のスーパーにも寄った。
「このお花、ゆずみたいね」とふみが。

なるほどね。




帰りのふみは荷物を持ってくれた、小さいほうの袋だけど。


うちに着いたらもう12時近い、急いで昼食を。かけ蕎麦だけど。
ふみはのど自慢をずっと無言で見てた。


急いで作ったご飯、なんか美味しくないね。
ふみと二人きりの時、なかなか落ち着いてご飯を作ることができないな。


昼寝の時、歌を歌ってあげても、背中をとんとんしても、ふみはなかなか眠ってくれない。おかしいことを言って、笑う材料を探そうとする。
さっきテレビに小猿がお母さん猿のそばでコロコロしてるのが映って、「ほら、ふみちゃんと同じ」と言ったら、この時ふみは私のことを「ね、さるしゃんのママ」と呼ぶ。


「ふみ、もう寝なさい、寝ないとママ怒るよ、本当に」
「ふみちゃんママが好き。このママがいい、他のママはイヤ、ダメ、このママがいいの、ふみちゃんは」とふみは私を指さす。
なんだか、目頭熱くなっちゃった。
ママだってふみちゃんじゃないとダメだよ。


「もう目を閉じなさい、開けちゃダメよ、ママずっと見てるから」
ふみは目をつぶった。力が入れてるから、皺をよせて、瞼は微かに震えてる。おまけに十何秒に一回急に目を開け、同時に眉を上げ、口を開く。そしてまたすぐ目を閉じる。


おかしくておかしくて、でも私を笑わせようという罠に嵌められちゃいけないよ、必死に笑い堪えた。
さすが午前いっぱい歩いたから、閉じてる目の回りはだんだん緩くなり、ふみ、ようやく眠った。


静かに眠って2時間余り、このままじゃ夜寝ない恐れがあるとみて、ふみを起こす。
「ふ〜みちゃん、ふ〜みちゃん」
ふみは明らかに目醒めたが、けど目を閉じたまま、
「にげるぅ〜」

「逃げる?どこへ?」
「鬼怒川」


あははは、鬼怒川っか、明日一泊予定している温泉だね。ふみの念願のスペーシアに乗って。



ヨガの先生から年賀状が来て、私は先生に出してなかったから、ふみが寝ている間に書いた。


赤坂の郵便局なら今日もやってるはず、青山にあるんだけど、ふみとお散歩のつもりで出かけた。



やっぱり結構な距離だわ。ふみ、よく歩いてくれてるね。


夕方になって、風もおさまった。




東宮御所の石垣は寒々とした感じ。




冬だな〜




「ママ、お月さまだよ」

本当だ、半分ぐらいになったね。



青山のお洒落な靴屋さん



お洒落なメガネ屋さん



郵便局から出たら、もう日が暮れた。




パパにメールして、仕事が終わったパパは自転車で迎えにきた。
薄暗いの中、ふみがパパを見かけると、走ってパパの胸に飛び込んだ。

「ふみ、えらいね、よくこんな長い道歩いたね」とパパが。

確かに。