アルコール
仕事場で使っているマグカップを、不注意に割ってしまいました。好きな竹久夢二のマグカップです。
生活のどこかに夢二の絵が見えると私は落ち着くのです。
仕事場で使うマグカップは夢二の絵柄のに決めています。
人形町にある夢二グッズの小さいお店「港屋」から買うのです。
この一個前のも、ちょっと欠けちゃいまして、「港屋」で買い換えたんのですけど。
昨日、ふみに事情を説明して、ママに付き合って一緒に人形町にマグカップを買いにいくのよ、と。
快く応じてくれるふみでありました。
夕べ、冷たい雨が上がりまして、今日は晴れて暖かいです。北風さえなけりゃなお申し分ないですけどね。
午前、地下鉄駅に向かう途中に、ふみは、
「ママのコップまた壊れたの?ダメね〜もう気を付けて下さいね」と少しも機嫌を損なうこともなく、足元も軽やかです。
「はい」と、思わず素直に答えました。
こういう時いつもふみはえらいなと思います。
だって、立場逆だったら、私はこんなに文句なく、説教なく、穏やかに言えるのかしらと考えると、ちょっと自信がないかも?(^◇^)
人形町駅に着いて、うっかり、いつもと違う出口からでました。
甘酒横丁まで少し歩くのですけど、お陰でまたいつもと違うものを発見できました。
「ママ、くましゃん、なにしてるの?」
「…」
なにしてるんおでしょうね。リアル過ぎて、長く見られないや。へへ
「大きいね。」
ほんとうに、特にふみの手と比べると。
「黒船屋」のマグカップ購入。二種類の便箋も。
小さい店ですけど、品揃えの良い「港屋」は、相変わらずわたしにとって嬉しい場所です。
今度は気を付けて使うわ。
もしかして、心のどこかに港屋に行きたいから、わざとマグカップを割ったとか?
米と麹しか使っていないため、赤ちゃんも飲めるんですって。
重いですけど、買いました。
店員さんとの会話を聞いていたふみは、お店から出たすぐ、
「これ、子供も飲めるの?どうして?」
「アルコールが入ってないからよ」
しばらく黙ってたふみは急に、
「ムソルグスキー、死因はアルコール中毒」と言いました。
ふみはムソルグスキーの曲「展覧会の絵」が大好きです。展覧会の絵、と、一々言うのが面倒のようで、この曲を「ダンダンダン」と名付けています。
パパが昔録画した「革命に消えた絵」というムソルグスキーのこの曲についての番組のビデオテープを、何回も何回も見ていました。
ムソルグスキーの人生を紹介するセリフも、所々暗記したようです。
ムソルグスキーはアルコール中毒で亡くなったそうです。
一台のタクシーが近くで止まりました。
中から着物女性が降りてきました。
かなり酔っていらっしゃいます。
目玉が浮遊している状態で、酔拳のような歩き方、着物なのになぜか肩に斜めにベルトの長いショルダーバッグを掛け、髪は乱れています。
徹夜にお飲みになったのでしょうか。
職業的に?お付き合い?やけ酒?同窓会?などなどと想像してしまいます。
急に女性は振り向いて、にやにやしてふみに向かって、
「何だって?聞こえちゃ〜った、ししし」
と、指は狐の形に可愛くふみに“挨拶”。
全然訳わかってないふみは友好的に笑みを浮かべて、手を振りました。
「あらっ、かわいい、どこに行くの?ふふふふ」と女性に笑いながら、急に、吐きそうな仕草をしました。
あららら、「どうも〜」と適当に挨拶をして、ふみと道を渡りました。
女性はそのまま目の前のインド料理屋さんの窓辺に肘をつけて、手で頭を支えています。
「大丈夫かな、これは完全にアルコールに…」
「なに?ママ?今なにを言った?」
「なにもない、なにもないよ」
行く時は日比谷線で、帰りは半蔵門線にしました。
トンネルばかりで、何をみているのでしょうね。
昼ごはんは駅ビルのスープ屋さん。
このスープとなら、普段あまり進まないご飯もいくらでも食べられる感じです。
ちなみにふみのすきなスープはオマール海老なんとか、私はサンゲタンを選びました。
三階の靴屋さんで、前から欲しい靴を購入。
とても歩きやすいウォーキングシューズですけど、いかにもウォーキングシューズ、というのではないですから、欲しくなりました。さすがイタリア製。
駅からでると、春闘の労働組合連合の長い長いデモ隊が見えてきました。「雇用を改善しろ」「最後まで闘うぞぉ」とのシュプレヒコールはずっと聞こえていましたけど。
「最後まで戦おうー」とふみも拳を上げて大声で叫びました。
周りの何人か笑いました。
即現場からふみを連行したのです。
絵画館前に到着。
ここはいつも平和を感じさせる場所。
さっきの小さい淑女が!
さすが身だしなみ、まったく崩れない。
よちよち歩いて来た子供が、止めているふみの三輪車に指さしして、あ、あ、と言います。
「乗りたいの?いいよ、どうぞ」と言ってあげました。
お母さんが「いいんですか?すみません〜ありがとう」と言って、子供を乗せてあげました。
テニスをぼーっとみているふみは、
「これ、ふみの」と小声で言いました。
「いいじゃない、ふみ乗ってないし、いいでしょう?」
と言ったら、ふみは頷きました。
その子のお母さんが持っているサッカーボールをふみに渡しました。
ちょっと遊んだふみは、すぐ目の前に転がって来た一個テニスボールに気を取られました。
テニスをする中学生たちは気づいていないようです。
「ママ、ふみちゃんこれ欲しい」
「でもこれはお兄ちゃんたちのでしょう?拾ってお兄ちゃんたちにどうぞって返したら?」
「いやだ、恥ずかしい」
「じゃそのままにしたら」
いつの間にか、中学生たち見当たらなくなりました。
「ママ、ふみこれ持っておうちに帰りたい」
「それはだめよね。お兄ちゃんたち困るよ、ボールがないと。かわいそうでしょう」
ふみはそのボールを持ってグランドまで走って、中へ投げ出しました。
ふみはすっきりした顔で戻ってきました。
これでいいんだ、悩みの種を目の前に無くせば、完全に断念するのですから、いい方法だと思うね私は。
それに野球の人たち、最後、掃除をする時に気づくのでしょう。なんとかあの中学生たちに渡すのでしょう。
うん。そうなるわ。
夕飯後、よもぎ団子を作ってみました。
改善すべき点が多々あります。
でもふみはおいしいおいしいと食べていました。
よもぎの乾燥粉を戻す時
ふみはおいしいと言って、何回ももらいに来ました。
変ってるね、ふみは、レモンや、酢や、全然平気で、今度はよもぎですか。
渋い渋い。