葬花

明日は、ふみのたんぽぽ組の最後の一日です。
つくし組、たんぽぽ組、今度はすみれ組になります。


人と目が合うだけで号泣してしまっていたふみが、こんなに人懐こく、明るく面白い子になるとは。
今日はパパが近所の酒屋のご主人と会って、さんざん感心されたそうです。ふみの行儀よい挨拶ぶりを。

酒屋のご主人とは確かに何回か道端で会って、ふみはいつもちゃんとおじきして大きい声でご挨拶をしていました。中の一回は三輪車を乗っている時でした。
ふみわざわざ三輪車を止め、帽子を外して「こんにちは」と元気よく言っていました。


酒屋のご主人は、おうちでとても厳しくしつけしているでしょうと聞いたそうです。

厳しくしつけなんて、そんなことありませんよ。
たぶんふみはお行儀よくご挨拶したら、みんなから感心され、褒められるから、気持ちがいいんでしょうね。


今日お迎えに行った時、ふみがスコップを持って、中庭で遊んでました。
わたしを見て走ってきてわたしの手を握って、
「ママ、金魚がいるよ、見て」と壁側に案内してくれました。

ストッキングのままでふみに連れられて見に行ったら、本当だ、新しく小さい池(本当に小さい)に、小さい金魚何匹か泳いでます。
何人かの子供がそばで見ています。

水面に横になってる一匹がいます。
「あれ?死んでる」と思わず言ったら、
「どこ?」「どれ?」と子供たち興味津津。

死んだ蛙や、死んだハト、ついこの前道端にあった死んだ雀(カラスにやられたようだ)に、ふみ含め子供はほとんど大人より平気みたいです。
“死”に対してまったくイメージがないといいますか、分別付かないのですからね。
怖いほどの純粋さを感じさせます。


横になった金魚はしばらくして、また泳ぎだしたのです。
びっくりした〜、こういうことってあるんですね。


「あ、動いた動いた!」とこどもたち騒いでました。


ふみのもう使わないおむつがまだ二袋あります。先生に、保育園に差し上げたいと相談したら、「とっても助かります」と喜ばれました。

先生はまたこんなエピソードを話してくれました。

保育園に置きっぱなしのふみの靴を、フランス人のJ君がとても気に入っています。
いつもその靴を見ています。
靴や靴下が嫌いなふみが、ちょっとでも暖かければ、すぐ裸足になって中庭で走りまわります。
今日、そういう裸足で走っているふみを見て、J君がふみの靴を持って先生のところに行って、これを履いてもいい?と聞いたんです。
先生はふみを呼んで、J君がふみ君の靴を履きたいと言ってるけど、いいかなと聞いたら、ふみは「いいよっ」と快くOKしてくれたそうです。
J君はしばらくその靴を履いて、喜んでました。



なんだか微笑ましいエピソードでしたね。
しかしふみの靴、なにがよかったのかしらね。普通のスニーカーですけどね。
こどものそれぞれのツボがわからないや。理由もなにもないのかもしれませんね。



時々ふみに、知らない人には絶対に付いて行っちゃダメだと、今の時代の“常識”を教えます。
忘れちゃ困るから、時々言い聞かせます。


今日、保育園の帰りに、ふみに買い物に付き合ってもらって、大通りに沿って遠い雑貨店に行きました。
ふみと手を繋いで歩きながら、
「ね、ふみ、もしふみの知らない人が急に来て、ママの知り合い、お友達よと言って、ふみ君、ママのところまで連れてあげるから車に乗ろう、と言ったらどうする?」

この危険人物は、車に乗せてあげると言ったり、ショベルカーに乗せてあげると言ったり、きれいなお姉さんだったり、工事現場のおじさんだったり…
いろんな顔でふみの前に“現れる”のです。


「そう言われたらどうする?ふみは」
ふみはちょっと凍ってるような笑顔で、「イヤだ、行かない!…ふみちゃん付いて行ったらどうなるの?」とふみは言いました。
「もうママやパパと会えないよ」

ふみはしばらく沈黙して、「ママ抱っこ」とふみは小さい声で言ったのです。
珍しいです。
これぐらいの道では、ふみ、めったに抱っことおねだりしないですけどね。


“悪い人”は、死んだ蛙や雀やハトよりはるかに怖い存在ですね。
その理解は正解ですね。


ふみを抱きあげて、ふみは頭を私の肩にくっつけました。
「でもだいじょうぶよ、ふみちゃんは賢いから、悪い人みんな逃げるから、負けるから」。
ふみはこの話を聞いて、少しほっとしてようす。


うん。ふみはきっと判断付くよ。

だって、この前、新宿西口前を歩いてたら、捨てられた犬の里親を探してるポランティアの人たちが街頭で募金をしながら、「この子の親になりませんか」と言ってました。傍らに、大きな真白な毛の長い犬が大人しそうに座っていました。

「ふみ、このわんこを連れて帰りたい?飼いたい?」
「イヤだ、あれ、噛むよ」とふみはあっさりと答えたのです。

犬好きなふみだから、連れて帰ると騒ぐんじゃないかと、わたしは自分の軽率な発言に後悔するぐらいだったところ、ふみの話しを聞いてちょっとびっくりしました。


「なんでよ、大人しいよ。」
「ダメ、あれは噛むもん」とふみは少しも未練なくその場に去ったのです。


なんの基準だか知らないけど、振り向いてもう一回見たら、なとなくその犬の目から微かなずるさが見えたような…。気のせいでしょうか。

まあ、ふみを信じよう。



高校時代、世間を騒がせたニュースがありました。
ある名門大学の女子大学院生が、四川省のある農民に騙され、人身売買され、山の奥の農家にお嫁さんとして売られたのです。
その女性は、逃げだすこともできず、誰かに助けを求めることもできなかったのです。
これで「成績はよいのだか、能力はゼロ」という受験バカの社会現象が一時話題になったのです。

幼なじみとうちでこの話題を話して、どうしてもその大学院生の愚かさを理解しがたい二人に、父親が、
「人のことを笑うんじゃない、珍しくもなにもないよ、あなたたち二人も同じく簡単に騙されるよ」と笑って言いました。
「それはないですよおじさん、私たちはまだ高校生だけど、でもいくらなんでも農民による人身売買の罠には嵌らないですよ」と友人。納得いかなかったのはわたしも同じくです。


「言うの簡単。農民でも何でも、“ねね、山口百恵の写真あるよ、こっちに来ない?さらに劉小慶の写真も”と言われたら、ササッとついて行くよあなたたちは、ははは」

?!友人と爆笑しました。
「おじさんから見て、私たちはこんなにバカなの?信じられない〜」友人は涙でるほど笑ってました。
しかも山口百恵はまだわかるけど(!)、女優の劉小慶が好きでも何でもないのにな。父親はかろうじて覚えられた当時の女優の名前を流暢を装ってすらすらと言い出した。

あ〜おかしかった。友人はいつも父親の冗談にお腹がよじれそうに受けるのでした。



今日は風もなく、穏やかな一日でした。
枝垂れ桜の下で、どなたかが、その散った花びらでハートを作ったのを見つけました。
美しい〜




紅楼夢」の主人公の林黛玉の「葬花」を思い出す。
儂今葬花人笑痴
他年葬儂知是誰

一朝春尽紅顔老
花落人亡両不知