白い一日


今日も穏やかなお花見日和。
が、ふみは出かけたくないと。


この頃ちょっと咳をこんでいるせいでしょうかね。外に出たくないのは。


まあ、しょうがないや。

でも、もったいないどすな。せっかくのええお天気というのに。
けど本人がそういうなら、押し付けはできまへん。


あ〜ふみ、君にはさくらを見るチャンスがまだまだ数えきれないほどあるんやけど、
ママは違うんや、そりゃママだってまだたくさんチャンスがあるんけどな、花を見て、どこかが叶わないというか、虚しくなって行く年齢になると、いやや。


年に一回しか咲かないこのさくらを見て、余計にこんな気持ちになってしもうて。


ふみはええな、なにもかもこれからやさかい、
どんなにぎょうさん楽しいことが待っているのかわからしまへん。



窓に照らされる春の柔らかい日差しを眺め、そうだ、前髪を切ろう、だいぶ伸びてきたし。
ハサミを取り出して洗面所に立つわたしを見て、
「ママ、ふみちゃんのここもちょっと切って、ここが」と、ふみは無理やりに頭のてっぺんから一束の髪を引っ張りだし、わたしに見せる。

「切るところがないよふみ、ここは長くないよ」
前回のように調子に乗って切りすぎるのがもう怖いから。


昨日の疲れでしょうか、家にいるとだんだん頭が重くなってきて、ベッドに横になった。
ふみも来て、「ママと寝る。ママの腕で寝るよふみちゃんは」

ふみはわたしの腕まくらにして、右左にコロコロして、眠そうにも見えるけど。


ふみに故郷の話をして、故郷の歌を歌って、ふみは静かにそれを聞く。
いつの間にか、わたしはうとうとしてしまって、目覚めたら、ふみは玩具やティッシュ箱を列に並べて、なんやら「発車、パックしまし」とか、ぶつぶつしゃべりながら、一人で遊んでた。


え〜〜わたしだけ眠ってたんだ。


起きたら、もう昼食の時間だ。ふみに大好物にカレーを食べさせ、今度はふみが昼寝の時間。
ふみをあやしながら、わたしまたうとうと。
「春眠、暁を覚えず」

昼寝から起きて、ふみとスーパーにお買物。

夕方に近いけれど、まだ昼間の余温が残ってあって、改めてこんないいお天気なのに…と思って、ちょっと残念な気分。


この春過ぎたら二度と来ない、このさくらが散ったら、次は来年、歳月はわたしを待たない。
なぜか今年のさくらをみていると、このような気持ちが強くなってきた。


毎日毎日、“今”、“今”を、ちゃんと味わいたい。
人間は、花や月と違って、毎年変わらない顔でいることはできないから。