春の一日

風もなく、ぽかぽか陽気の朝。







花びらは絨毯になり、これからは大地の懐に戻る。




登園道で、Aちゃんとその両親に会った。
Aちゃんは、ふみのつくし組のお友達。半年に一緒になって、Aちゃんは違うところに行った。

ふみは時々Aちゃんのことを口にする。フルネームで呼んでる。
「K・Aちゃんはお豆に当たって泣いたね」と。

その年の、近くの神社の節分でのできこと。
Aちゃんはお父さんに抱っこされ前の方に行って、「福はうち」と撒かれたお豆に当たり、大泣きしてた。
ふみには、よほど印象深かったでしょうね。


4月からAちゃんの妹がふみと同じ保育園に入った。
あの時のいつもお母さんの抱っこホルダーにいた丸い顔の静かなAちゃんの妹は、もうよちよち歩けるようになったんだ。


久しぶりに会ったAちゃん、大きくなった。お姉さんらしく、長い髪をきれいに編んで、ふみと同じくリュックをしょってた。


親同士お話をしている間、Aちゃんは、ぼーっとふみを見てた。
ふみは、もう照れて、下を向くばかりだった。


大笑いしちゃった。


おそらくAちゃんもふみもお互いのことを覚えてないね。名前は覚えても、顔は覚えてないと思う。


保育園に入って、ふみは靴を脱ぎ、すみれ組の部屋に入った途端、大声で先生に、
「K・Aちゃんと会ったよ」と報告。

けど、先生はもうふみがつくし組の時の先生と違うから、Aちゃんのこと知るわけがないからね。(^^)/



しばらく先生とお話しをしてた。

「ふみ君は、お友達と遊ぶのが大好きです。でも、この年齢の子って、相手を合わせることまだできなくて、それぞれのやりたいことをだけやるから、それでふみ君も結構悔しい思いをしたりしたんじゃないかな…」


なるほどね。
今朝、起きたふみに、パパが「おはよう」と声をかけたのに、ふみは、
「いやだ、おはよう言わない、パパあっち行って」

「どうしたの?ふみ、挨拶しなさい」とわたしが言ったら。ふみは流し台の前に座り込んで、涙をぼろぼろ落とした。


なんなのよと思って、“春になって乙女のこころが…”、違うじゃん!


仕方なく近づいてふみを抱き上げようとすると、ふみは今度わたしに向かって、
「いやだ、ママあっち行って、ママ要らない!」としくしく。

「ママはふみを要るよ」
「いやだ」
「ママはふみがイヤじゃないよ、大好き、ママはどこにも行かないよ、ふみと一緒にいたい」


ふみはまだすねているが、表情をだいぶ和らげた。


先生の話を伺って、なるほどと思った。

外でなにかの悔しい思いをしたから、家でその分を甘えたいのね。


いっぱい甘えさせてもらって、ふみは「早く保育園に行きたい」といつものように言った。

ふみは悔しい思いをしても保育園が嫌いになってないようでよかった。


ふみをもっと信じよう。機嫌悪くなったり、挨拶をちゃんとしないとか、大目に見よう、うん、ふみを信じよう。
なにかの理由がないと、ふみはそうはならないから、ふみはいい子だもん。



先生はまた、
「新しい組に上がって、決まりもいろいろと変わったり、環境も変わったり、子供はそれなりに疲れが溜まるんですから…」と。

それで先週日曜日のあんなによいお天気なのに、ふみはどこにも行きたくないと言ったのね。


先生は、「疲れがある時、“どこにも行きたくない”と言えるふみ君はすごいですよ」と。


そうか。子供も、一人の独立の人間だもんね。尊重してあげないとダメだもんね。
なんでもこっちの望む通りしないとダメなんて、例え親にもそんな権利はないことね。

先週の日曜日、出かけたい自分の気持ちを抑え、ふみとうちで過ごしてよかった。
ふみの“疲れ”はそれによって少し癒されたらなによりだ。



で、その日にとても行きたくて行けなかった六義園に、今日わたし一人で行ってきた。


入口あたりのこの巨大な枝垂れ桜は、もう葉桜になった。残念。



都内の真ん中あたりとは思えない、時が止まってるような空間。



亀たちは静かに甲羅を干してる。



鴨たちは眠そうに日差しを浴びてる。



こんな橋、気分悪くなりそうなのは、わたしだけかしら。
ふみが一緒にいないのが助かったわ。


息を止めて渡っているわたしを、そんなにおかしそうに見ないでよ。



こっちの橋はいくらかまし



ソメイヨシノはまだ見頃。


さくらの下で座って、さっきの緊張をほぐそう。



あ、茶室があるんだね。

お抹茶をいただきま〜す。







女性二人のお喋り声が聞こえる。振り向いたら、お洒落な上品そうなご婦人が隣席に座った。


「ね〜男の人って、年取ると変わるもんだね〜 うちの主人、ああ見えても若いときはダンディなのよ、お行儀もよくて。この頃全然だめ。この間さぁ〜、パスタを、すっごい音を立てて食べるのよあなた、もう私はなんて言ったらいいのか、昔ああじゃなかったのよ、本当よ、昔はお行儀よかったのに、ダンディで…」
「うちも同じよ。うちのお父さんだって、昔は散らかしてるのが大嫌いだったのよ。この頃はもう、買い物をしたら、その買い物袋をそこら辺に散らかしっぱなしで、どうしたのかしらって思うよ。まったくダメね。年取ってくるとだらしなくて…」



思わず下を向いて笑ってしまった。
なにもさくらの下でそんな話をしなくたって。




暖かいな〜もう春はそろそろ終わるんだな〜
六義園をあとにした。


ぶらぶら歩いて、一軒の染物屋さんを発見。
おじゃまして、しばらく静かに染物の作業を見せてもらった。


これは藍染ではなく、染料はお米などでできたものだそうで、「食べても大丈夫なものですよ。まあ、食べる人はいないよね、ははは」。美しい彼女は丁寧に作業をしながら話してくれた。



今度ふみを連れて体験して見ようかな、Tシャツとか。



帰りのホームの窓から。