太鼓

ふみは元気。
昨日の朝のあの急な熱は、幻のようだった。

今日、ブロックで作ったのは、「鳥さん」でした。



今日はヤマハ音楽教室がある日なんだ。

行く途中に、ずっとふみに、
「ふみ、今日は、もし先生のところに行って歌うことになったら、途中で帰って来ちゃ、もうダメよ、ぜったいね。約束できる?」
「わかった、わかった」
「あと、タンポポの綿毛を表現するのに、あんな力強く、ぼーぼーってふざけちゃダメよ。綿毛だから、ふわふわして、優しい感じでしょう?だから優しく、そっと、ぽっぽー、ぽっぽーと表現しないとおかしいでしょう?」
「わかった、わかったよ」とふみは上機嫌。


教室が始まった。

まずみんなで、
「♪こんにちは、お友達、こんにちは、先生、こんにちは新しいお歌…」と歌うのです。

ふみは、ちゃんと大声で歌いました。「こんにちは」のたびに、両手で口を囲んで、ラッパの形のもよくできたので、先生に誉められました。

さあ、タンポポの歌の番、ふみはわざとらしいぐらいに声を密かにして、それはよかったのだが、「ぽっぽー、ぽっぽー」なのに、ふみは「ぽっぽっぽっぽっ…」と歌って、同時に両手をあたりにあっちこっちでパーをしてます。


花火じゃないんだから。もう〜


ふみは、目を丸くし、両手も口も大忙し。その様子がどうしてもおかしくて、わたしは必死に笑いを我慢してました。


先生は、「お、ふみ君、元気だね今日は。綿毛をいっぱい飛ばしてたね」とニコニコ。

そうか、ふみと浜離宮で、タンポポの綿毛をたくさん吹き飛ばしてたことがあったんだね。

ふみは、ふざけてたのか、それとも、もしかしてその時の光景を思い出し、表現しているのかもしれない?


人の前でも、自分の気持ちや感じたことを、上手に表現できるようにと、子供たちを前に一列に立たせて、親たちに向かって歌いながら、動作も入れて披露することになった。


ふみ、上機嫌にエレクトーンの前の椅子から降りて、前へ行こうとする時、わたしは素早くふみの腕を掴んで、
「ふみ、途中で帰って来ちゃダメだからね」
「うん!わかった!」とふみは前へ走って行った。


練習の段階で、一人女の子が、むずむずし始め、ドアのほうに移動したり、泣きそうにしてました。
子供たちは一斉にその子のほうを見ます。
チャンスだと思ったのか、ふみは迷わずにわたしの席に戻ろうとする。
ふみと目があったわたしは、一生懸命頭を横に振った。
ふみはわたしを見て、笑って、また列に戻った!
わ〜よかった〜


今度は親たちに向かって、子供たちが歌い始めた。あのタンポポの歌。

ふみは、両手を挙げて、正確にパーにしたり、グーにしたり、口では大声で歌を歌ってた。


なんだか小さい感動を覚えたね…。

……

「次のページ。は〜い、皆さんは、もうパパかママと、象さんとウサギの顔を完成したかな?」

あっちゃー、すっかり忘れた。にらめっこの歌に、空白の象さんとウサギさんの顔に、最後のページにある鼻や耳を切って、好きなところに貼り付けて、色塗らなくてはならないのがあったね。
とうに忘れてしまったわ。

ほかの子は一人一人自慢そうにそのページを先生に見せ、「パパと一緒にやったよ」「ママと一緒にやったの、これ、××ちゃんが塗ったのよ」


これはこれは、たいへん。申し訳ないわ。
「ふみ、ごめんごめん、ママが悪い。すっかり忘れたね」。
最近のわたしは、あやまってばっかりだね。


隣から、救世主のような声が聞こえた、
「これはパパが悪いわ、パパが忘れた、ごめんね」と、Uちゃんのパパでした。
さらに天使の声が聞こえた、「ふふふ、ま、いいっか」、Uちゃんの声でした。


Uちゃんはしっかりしている、けどおっとり系の女の子です。音楽が大好きなようで、毎回教室終わる時、外で涙を流し、そのパパに、「しょうがないじゃないか、また来週あるし」と説得される。

Uちゃんのパパも音楽が大好きなようで、音楽が流れるたびに、愉快に体をリズムに合わせて揺らします。


この親子の会話を聞こえて、わたしはだいぶほっとした。
「ふみ、Uちゃんも忘れたって、ママだけじゃないよ。いいじゃないか。今晩にでもパパと一緒にやろうね」

ふみは「え〜〜〜」と、ちょっと難色を示しながらも、諦めたようだ。


教室から出て、ふみに、
「ふみ、今は仲良しコースだけど、もうちょっと大きくなったら、ピアノ教室やエレクトーン教室もあるから、どっちがいい?行きたいのある?」
「ふみちゃん、太鼓教室がいい!」

プッ、吹き出してしまいました。
まあ、和太鼓の教室、どこかにあるでしょうね。
煽らない煽らない。




帰り道に、まだアジサイがきれいに咲いてた。
ちなみに、うちのは、もうしおれてました。



こんな、わんことも出会った。(あとで調べたら、“オールド・イングリッシュ・シープドッグ”と言うみたい)


「目はどこ?」

そのシープドッグと別れて、ふみは歩きながら、
「ママ、あのわんこ、うっとうしいよ〜って、追っかけて来るんじゃない?」と。
うん。うっとうしいでしょうね、あの前髪は。