男の子たち


昨日、ふみはお友達と遊ぶ時、喧嘩して、顔が爪か何かで引っ掻かれて、鼻の近くに赤い痕が一本残ってた。

夜、ふみは“杖”を持って、たいへんそうに「えっ、えっ」と言って、下駄のように積み木を踏んで、お得意の“おじいちゃん”をやる。
「目が見えないのじゃ」とふみが言うのだから、
「おじいちゃん、お顔の傷はどうしたんですか?」と聞いてみた。
「これ?これはおばあちゃんにやられたんじゃ」とふみが。

吹き出してしまったよ。だってついこの前は、「おばあちゃんはもう亡くなった」との設定だったのに。


今日ふみをお迎えに行って、ふみは奥のほうで遊んでた。


入り口で、S君とMちゃんとHちゃんが遊んでた。
ふみのリュックを取ったわたしを見てS君が、「どうぞ、食べて、うどんだよ」と、空っぽのお椀と、しゃもじをのばしてきた。

しゃがんでS君からお椀を受け取り、食べるまねをして、「わ、おいしい、これはS君が作ったの?」
「うん!」
「上手ね」


ふみのリュックのファスナーにぶら下がってるタツノオトシゴの標本のキーホルダーを見て、
S君が、「あー、恐竜だー」と言って、
途端に、Hちゃんが、「恐竜?今、S君が恐竜と言った、タツノオトシゴなのに、S君、恐竜って言ったよ」とわたしに訴える。
「ちょっと恐竜に似てるね」とわたしはS君に。
「…。タツノオトシゴ、わかるよ」とS君が。

Mちゃんがこの時、そのキーホルダーに触って、「死んでる」と小さい声で言った。

「寝てるんだよ。寒いから、眠ってるの」とわたしはMちゃんに。
「いつ起きるの?ずっと寝てるの?」とMちゃんが。
「春になったら目覚めるよ。その時、見せてあげようか」
「こわい」とMちゃんが。
「怖くない!ぼくは怖くない、男の子だから。見せて!」とS君が。
Mちゃんはへへへと笑う。



Mちゃんは、静かな女の子。月齢は一番下ぐらいかな、小さくて、いつも鼻を垂らしてる。

少し前、昼寝の時、Mちゃんは寒くなったのかな、隣りで眠ってるふみのお布団に入ろうとする。
ふみはMちゃんを押し出す、押し出されるMちゃんは、また入ろうとする。
何回かやって、ふみもどんどん力を入れたのでしょうか、思いっきりMちゃんは押して、Mちゃんは泣いた。
先生はふみを叱った。


ふみはうちに帰っても納得いかないようす。
「だってMちゃんは自分のお布団で寝ればいいのに、いやだ!」


「あ〜〜いいのに、ちいちゃいMちゃんがお布団に入って来ても、Mちゃん、お布団をかけてあげようかとか言うのが格好いいのに、ふみ、女の子に対してやさしくないとだめよ」
「だって自分のお布団で寝ればいいのに、いやだ!なんでぼくのところ入るの?」
「かわいいじゃない!ママはMちゃんかわいいと思うよ」
「なんで人のお布団に入るのよ」
「あれ?じゃ、ふみちゃんはなんでママのお布団に入ってくるの?」
「えぇぇ?…、だって、…」
「ママはふみが、女の子や小さい子にやさしくしてほしいな」



目の前のニコニコする静かなMちゃん、やっぱりかわいい。
こんなにいい子、どうしてふみはお布団をかけてあげたりすることができないのか、不思議ほど。



クールなY君が来て、いつもぶっきらぼうな言葉遣いで、ちょっと乱暴なY君は、わりとわたしのところに寄ってきたりする。
「Y君、ほっぺ触ってもいい?」
Y君は黙る。
Y君のほっぺは丸くてふわふわ、とってもかわいいから、黙認を得て、わたしはY君のほっぺを揉む。

Y君は、「ね、どうしてこう、赤いのするの?」とわたしの指を掴んでネイルを触る。
「きれい?」
「きれい。なんでこうするの?」
「だって、Y君に褒めてもらいたいからよ」
Y君は笑顔を見せた。

「ね、Y君、今度違う色にしたら、また見せてあげるね」
「うん!…、見ねぇよ」
「照れてるぅ」
「違うよ。触らないでよ」


ははは、男の子って、おもしろいね。



ふみの“お友達”の大殿様のモリセイコウさんは、お嫁さんもいるんですって。
「きれいよ。目がビョ〜ンとしてる」とふみは、両手で、いかにも目玉がボヨ〜ンと飛び出してるような仕草をする。

わ、オバケに間違いないや、こりゃ!