お誕生日

ふみは、完全に中国モードに切替わり、上機嫌になり、朝早く起きて、はしゃいでました。


朝食はレストランで、ふみはやっぱりお菓子と牛乳を食べて、
わたしは南瓜粥を。昨日は粟のお粥でした。


今日は、今回北京に行きの目的でもある、父親が亡くなって10年記念会の日です。


正装して、まず集合記念写真の撮影会です。
こんなにたくさんの大先生と学者から、モンゴル国大使館の文化参事までいらして下さって、感無量です。


撮影は外でのため、皆さんはコートやマフラーのままで(せっかく正装したのに)、ふみも前の列に立って、手に拾った何時かの残雪の塊を持っていました。


午前中は、父親生前の友人や教え子たちの発言です。

古稀之年の南京大学のQ教授は、
「わたくしは、×先生の友人というより、×先生のファンだと自分で思っております、一生のおっかけでした。(略)×先生は、500年に一人の人材とは言わなくても、“不世之材”でした、10年前に×先生の訃報を聞いたとき、ほんとに…」と声を詰まらせたのです。
「今、×先生がいなくなり、どうしようもない、僕は先生が残した数少ない文章を何回も何回もまた読み直して、なにかないかなと…」

内モンゴル大学教授B先生は、父親と専門が違うけれど、こんなエピソードを話しました。
まだ学部生の時、B先生は、歴史が必修科目で、父親の授業を受けて、歴史の基礎知識すらないB先生にとって、難しすぎだったと言う。

大学卒業、院生試験を受けようと、歴史に関するわからないところを、うちまで父親に聞きに行ったという。
「今思い出してとても幼稚な質問だったが、×先生は少しも嫌な顔をせず、丁寧に答えて下さいました」
その後B先生は院生に受かって、ある日、B先生の学生宿舎に父親が急に尋ねてきたという。
《新英漢大辞典》と《漢英辞典》の二冊の辞書を持って、
「院生になったんですね。おめでとう。お祝いです。茅台酒をお祝いとしてあげるもいいが、酒は飲んだら何も残らない、この辞典ならあなたの役に立つと思う」と父親は言ったそうです。


「この辞典、今でもわたしは使っております。あの時代は、先生は学生にとってたいへん近寄れない存在であるため、わたしはびっくりしました。先生は記念写真を撮ろうと、わたしとこのカラー写真を撮りました」
大画面で、若きB先生は父親と、枝に雪がいっぱい積もってる銀色の中の写真が写る。
父親は、ベレー帽を被っていました。
父親は、ベレー帽が好きだったんですものね。


写真の裏に、父親はその日の日付を書いてB先生に渡したという。


ほかの先生もいろんな思い出を語りました。
日本人の方は、思い出の中で、必ずご馳走になったというのがありました。


アメリカにいる父の親友Z先生からのお手紙を読んで下さる女性のW先生は、何回も声を震わせ、止まってしまいました。


父親、他界して10年なのに、まだこれだけの方が集まり、父親のことを偲ぶというのは、感無量です。



ふみは、意外や意外、お利口でした。






おとなしくわたしの膝に座り、静かにいて、ちゃんと拍手したりもしてました。


休憩のお茶の時間です。お菓子とコーヒーと果物がありました。

ふみ、首にわたしの名札をぶら下げ、大好きなスイカをたくさん食べました。

皆さんふみを褒めてました。
「落ち着きがありますね。大教授になるんじゃないの」とか。
「うちの息子はもう8歳だけど、こんなところで静かに座るのは、まずありえないね」とか。


事前にふみによくよく話したとは言え、ここまでできるのは、正直わたしも思わなかったのです。


昼食の時間だぁ〜ふみは、やっと、はしゃぐことができた。


コーラを飲んで、隣の先生と何回も乾杯したり、スイカを食べたり、モンゴル国から来たというある博士のところに走っていって、「朝青龍は知ってるの?」と聞きに行ったり、やっと解放されたって感じ。


昼食のあと、ふみと×大学の中でお散歩。たくさんの若い若い大学生の雰囲気は、昔とそんな違わないもので、懐かしかった。


日本で見かけたことのない巨大なダンプトラックが、土をたくさん積んで走って行く、細かい土埃が舞い上がる。


ふみは大喜び。
「あれ?、なんで子供が座ってるの」とふみは叫ぶ。


ほんとだ。運転席に、運転手の奥さんらしき女性が、子供というよりまだ赤ちゃんの小さい子を抱いて座ってる。


「ママ、北京で暮らそうか」とふみは遠くまで走って行って、戻って来たら言った。


はははは。


午後からは学術研討会です。

何人かの先生が論文を発表し、それにほかの先生が質問し、回答してもらう。



ふみは眠った。
午前中じーっとしたのは、ふみにとって走り回るより疲れたのでしょうね。


「×先生の学術の命はまだ続いている」との最後の言葉で、記念会が終わりました。


感無量感無量で、もう一度昔のあの歳月に戻りたかったです。今や偉い先生方になった方たち、当時は学生として、よくうちに尋ねて来てました。
とにかくお客さんが多かった。
あの時代、楽しかった、ほんとに。
二度と戻れない貴重な歳月だった。


今日はふみの4歳の誕生日、忘れられない誕生日になるのでしょう。


晩餐会で、姉とわたしとふみは、グラスを持って各テーブルを回って“敬酒”する、ふみのワイングラスにはオレンジジュースが入ってる。
ふみも、みなさまと乾杯乾杯しまくってた。



父の教え子のW教授の奥様が、ふみの誕生日と聞いて、わざわざケーキを買って来てくれた。
「丸いの買いたかったけど、なくて、時間がないもんで…」


とんでもないです。
うれしいかぎりです。


ふみ、お誕生日、おめでとう!