名人?

近所の神社、年に一度お祭りがあるんだ。


何日か前に、ふみは金魚掬いしたいとか、子供神輿を引っ張りたいとか、意欲満々でござる。
恥ずかしがってなかなか山車を引っ張ることができない去年と全然違うわ。


音楽教室が終わってから、神社に直行。


「ママ、綿菓子買ってね、食べたい」
「綿菓子?」
「うん。だって、小さい時、怖くて食べられなかったから」
確かに。だけどもちろん覚えてるわけがないよ、親から何回か聞いて、そう記憶が残って、綿菓子を買ってもらう理由とするふみ。

「いいよ。でも綿菓子を持って金魚掬いは難しいから、あとにしよう」

ふみはちょっと考え込んだ。
綿菓子も金魚も、どっちが一番だと決めるのは難しいようだね。

「ふみ、ラムネを飲もうか」ラムネなら綿菓子よりはジャマにならないはずだわ。


ふみは喜んだ。
普段甘いものをあまり買わないけど、年に一度のお祭りだから。


ラムネの屋台のおじさんは、
「もうここで飲むでしょう?開けてあげようか」とラムネを開けて下さったのはいいが、
これで完全に開けたのか、さらに剥かなきゃダメなのか、ふみもわたしもわからないや。
仕方なくおじさんのところに戻り、「このまま飲んでいいんですね?」と尋ねるが、
反対側にいる何をしてる人かわからないおじさんに「ちょっと、おいで」と呼ばれ、「はい?」ふみと素直におじさんのところへ。
「ラムネはね…」と、そのおじさんはラムネの楽しい飲み方を教えてくれた。


「ピリピリしておいしい」、すべての炭酸飲料は、ふみには“ピリピリジュース”を呼ぶ。
ピリピリジュースも、めったに買ってやらないの。



さあー、金魚掬い。
遠い昔、一度やったことがあって、全然ダメでした。
今日はダメ元でふみにやらせる。どうせ無理でしょう、夏の思い出として、って感じでいっかと思っていて、お金を払って、紙の網をもらった。

「坊やはまだ小さいから、お母さんが一緒にやってあげたほうがいいよ」と金魚のおじさんが。

そうね、ふみの手を持って網で掬う。
紙だから、すぐ破れるので(急いでボールに入れないと…)と力を入れたら、紙の網、案の定すぐ破れた。

「いやだ、ぼく自分でやるの、自分で!」
もう一回網をもらった。


「ふみ、これは紙で出来てるものだからね、早くやらないと破れちゃうから」、わたしの言葉は、ふみの耳に少しも入ってないようだ。
ふみは、紙の網を持って、ゆっくりと金魚を追っかけて掬って、掬ってからも、ゆっくりとボールまで運ぶ。

やったー、大成功!わ〜、というわたしの歓声はまだ早い。ふみはそのやり方で次から次金魚を掬ってはボールに入れる、5匹も。最後の一匹は、なんと出目金だった。


見物人の年配の女性2、3人も声をあげて感心してた。




やはり、ゆっくりやるのが正解だったのかも?
おとなは、すぐ破れると知っていて、慌てちゃう、だから破れやすい。
いろんな概念がまだ頭に入ってない子供のその無心のところが、逆に勝つのかもしれないね。
どんな時でも、ゆっくりと、落ち着いて、ーーヨガの先生はいつもこうおっしゃってます。



金魚をぶら下げて、ラムネを飲みながら、ふみはすっかり名人の気分。




お寺に行って、睡蓮の鉢に金魚を入れた。
鉢には金魚の餌になれる虫がいっぱいいるから。
蓮の花の鉢にも入れたかったけど、金魚の数が足りないや。


お寺の大奥さまが出目金に名前をつけようと「黒ちゃんにしようか」とふみにおっしゃり、
「いいよ。…、でも、クロスケにしよう」とふみが。


クロスケと呼ばれる出目金は、実はオレンジ色と黒の模様のでした。