世話をする

朝早々、雨の中、ふみはカッパを着て、パパと近くの公園で、水路の水を汲んできた。
ザリガニを、ケースからバケツに移動した。ケースはどうもちょっと窮屈のようだから。
砂も少し拾って底に敷いて、ザリガニ君は、もっとのびのびできるでしょう。


「ママ見てぇ〜ここね…」ふみはザリガニの足に近づいて指差す。

おとなしかったザリガニが、その時、急にハサミを広げて、上に向かって攻撃してきた。

あわや指を挟まれそうになったふみは、びっくりして、わたしに抱き着いて、泣きそうになった。


その後も、わたしのスカートがバケツの縁に触れるだけで、ザリガニは体を挙げて挟もうとした。


元気な証拠でしょうけど、やられるほうは、びっくりしちゃうよ。


毎朝、夕べの洗濯物の乾いたタオルを畳むのは、ほぼふみの日課となった。

たくさんのタオルを、だんだん上手にキレイに畳めるようになっている。

褒めると、ふみはいつも照れて、
「僕じゃないよ、鳥だよ」と、わけわからないことを言う。



ふみと登園し、ふみは先生やお友達やほかの保護者や、会う人、会う人に、
「俺のザリガニはいつも怒ってるよ、ちょーつえぃ(強い)よ」と自慢する。

威嚇されて泣きそうになったのは、だーれだ。


年長さんの黒人のMちゃんが玄関で、わたしに手を指し伸ばして、
「見てー、今朝塗ったの、もう乾いてるよ」
「わ〜かわいいね」

Mちゃんの十本の指に、赤いマニキュアがとっても鮮やか。


「かわいい〜」Mちゃんはわたしの手を掴んで、わたしの指先をじーっと見る。
「あ、お花いっぱいだ、かわいい―」Mちゃんはわたしの薬指の爪のデザインに歓声を上げる。「どうやったの?描いたの?」

「う…ん、魔法で」
「え!?本当?」Mちゃんは目をキラキラさせる。

「ちげー(違う)よ、人に塗ってもらってる」と、しゃがんで上履きを履くふみが、横から口をだす。

余計なこと言わないの、魔法だよ魔法。本当に魔法だもん。
というか、わたしから見れば、こんな細かい手作業が器用にできるなんて、
魔法の如く。




雨の中で、きれいに咲いてる額あじさい。




夕方に近い時、雨上がった。

夕方柔道を頑張ったふみは、さすが疲れたか、めずらしく早く眠った。