金木犀の香り
夕べ、パパが水泳に。
ふみにお風呂に入れようとする前に、まず歯磨き。
この頃のふみは、夜と朝、自分でさっさと歯磨きする。
その間、テレビを何気なく付けて、あるタレントが、四日間、草だけを食べる生活を送るという番組をやってる。
何気なくテレビを見たふみは、歯ブラシを持ったまま、食い入るように動けなくなった。
CMの間、やっと洗面所に行って歯磨きを終了させたが、素早くソファーに戻り、その草だけの生活を食い入るように見る。
そのタレントは、草食動物のおとなしくて可愛いアルパカを連れて、草を探し、草を調理し、草風呂に入り、また野草採りに行く。
ふみ、喋らない、動かない、その3時間の番組をじーっと見ている。
お風呂、こりゃ無理だわ。黙ってわたしは先に入り、出て来て見て見たら、案の定ふみは、さっきのまま食い入るように草生活を見ている。
パパが帰ってきて、「もう遅いから、ふみお風呂入ろう」「いやだ、見るの」「3時間の番組だから、遅くなるから、さー風呂入ろう」「見たい、見るの、お風呂は後で」
最後は、録画するとのことで、やっとふみを説得。
なんでしょうね、ふみが好きな番組はちょっと掴めないや。とにかく何かのツボにハマったのね。
今日は柔道の日。保育園に迎えに行って、その足で、ふみとU君を連れて道場へ。
U君は前回の見学をしてから、今日は正式に柔道を習うことに。
保育園の玄関で、
外に出たら走らない、必ずわたしと手を繋ぐ、との約束を二人にしてもらい、「約束を守れる人ー」「はーい」二人の声は、やや小さい。
「あーコンクリートミキサー車、はははは」
「あー高所作業車、俺このトミカを持ってる」「俺も、はははは」
「なにあの人、ははははは」
「あ、わんこ、はははは」
…
「あ、U君、知ってる?この草、食べれるんだよ」
ふみは急に真面目な顔になって、立ち止まって道端の背の高い草を掴んでU君に言う。
「え〜〜」
「ほんとうだよ。タンポポだってね、食べれるんだよ、ちょっと苦いけど」
はっはっは、今度はわたしが笑う。
無事に道場に着く。先生から柔道着を借りてU君に着せた。写メールを撮って、U君のお母さんに送った。
「ね、ご褒美は?」
「ご褒美はないの?」
「う…ん、じゃ、約束を守った人ー」
「ハーイ」二人とも声は相当大きい。
用意したハロウィンのキャンディをあげる。
「わ〜みかんの味だ」
そうか、カボチャの味じゃないんだ。カボチャのキャンディは味が難しいでしょうね。
「なに食べてるの?」イタリア人のA君が近付く。
「あ、キャンディ要る?」
「お、もらう。ありがとう」。A君はちょっと乱暴なところはあるけど、礼儀は正しい。
「Sちゃんが来た!」、U君とふみは大喜び。
Sちゃんも大喜び。Sちゃんのパパも今日から一緒に柔道を習うことに。えらいね。
稽古が始まる。まず走ることに。
ふみとU君とSちゃん、三人がすごい笑顔で走ってる。
ほほえましいな〜と眺めているわたし。
ちょっと待って、U君、はーはー言ってるではないか。
U君は喘息持ち、それで入院したことも。
「U君、U君」聞こえないや。ふざけてる子供たちはいろんな声をあげて走ってる。
仕方なくU君を捕まえ、壁側に坐らせ、
「U君、苦しい?無理しなくていいのよ、休もう」
U君の背中を撫でながら、U君の顔を伺う。
U君は黙って、はーはーしてるばかり。
しばらくしたら、U君は咳込み始めた。
「U君だいじょうぶ?お水?」
「だいじょうぶよ。いつも咳をしてるから」
U君の咳はだんだん鎮まった。
「U君は入院してたもんね、たいへんだった?」
「ううん。でも注射いっぱいした」
「病院でお友達ができた?」
「ううん」
「そっか、そんなに長くないもんね」
「ね、お腹すいた」
「あ、ごめん、キャンディしか持ってないの。今度何か食べ物を持ってくるから」
「やったー、じゃ、ジャガリコがいい」
「ダメよ、ビスケットにするね」
「なんで?」
「だって、ここでボリボリとジャガリコを食べたら、先生に怒られるに決まってるじゃない」
U君、ちょっとその場面を想像したようで、笑いだした。
中休みの時間に、Sちゃんのお父さんが来て、
「U君どうしたの?」
「え?疲れただけ」
U君はこうやって稽古したり、わたしのところに休んだりして、2時間が過ぎた。
終わる頃、お仕事が終わったU君のお母さんが駆け付けて来て、
「すみません、どうしてもこんな時間になっちゃって…」
さっそくU君が走っていいかどうかを伺って、
「それはだいじょうぶです、苦しくなったら、本人は自分で止めるんです」
なるほど、そうでしょうね。しかしU君のお母さん、たいへんですね。いろいろと。
楽しそうな三人組はトイレに走って行って、乾燥機に手を当てて風と遊ぶためだけ、女子トイレから男子トイレ、何回も何回も。ケラケラ笑う。
キンモクセイの香りが漂ってきます。もう、こんな季節なのね。