風船
ふみが植えた葱、まだこうやって元気にある。
葉牡丹を二つ買って来て、ベランダの枯れたお花と植え替えた。もうあと三週間でお正月だもの。
今朝、目覚まし時計が鳴って、すぐ起き上がってるのはふみだけ。寒い日は、温かいお布団から、すぐには出たくないや。
休日であろうかなんであろうか、ふみは毎日同じ時間に起きる。
特に日曜の朝、ふみはなにがなんでも観たいのは、ヒーロー物語のドラマ。
ワケわからないで戦ってるだけだけど、ふみには、よくてしょうがないみたい。
「起きて起きて、時計鳴ったよ」とふみは耳元に大きい声でいう。
「ふみ、まずストーブをつけてくれる?電気も」
日曜だじょ!たまにゆっくりさせてくださいな。ママは風邪気味だよ。
今日は、宿題をやってから、ふみと新宿へ出かけるつもり。
保育園の劇のため、服装の用意を言われて、買いに行かないと。
紙を足で回そうとしてる。
「じゃ、これは?」
わたしは負けず嫌いにヨガのポーズを披露。
「え?!すごいすごい、ママすごいな」
でしょう?足の指は頭のてっぺんの先に着地してるというポーズ。
新宿のデパートで茶色(悟空用)とベージュ(八戒用)の服を探す。
ないや。とくに無地のなんて。
これはネットから探すしかないわ。
うろうろして、もうお昼になって。
日曜はどの店も混んでいて、デパートから出て、新宿通りの地下の一軒の蕎麦屋に入った。
パパにメールして、大の蕎麦好きなパパから、
「その店、わりとおいしいよ。板ワサも。鬼に金棒、ふみにカマボコ」との返事がきて。
店員さんを呼んで、板ワサを追加。カマボコはふみの大好物なんだ。
いつの間にか、風船はお店の天井まで昇ってる。
「え〜〜、なんで、取って、ママ取って」
「帰る時、取ってあげるから」
「誰の仕業?」
「カマボコよ」
「カマボコなんでこんなことをするの?」
「ふみ君、風船とあたし、どっちが好きなのよって」
「風船とカマボコ?」
「うん」
「え〜〜、やっぱり風船のほうがちょぴっと好きなか」
「だからよ。カマボコはそれで怒って、風船をあそこまで追い払ったのよ」
「え〜〜、どうするの?」
「歩いて帰ろう。風船はね、青空が大好きだって」
「風船はそう言った?」
「言った言った、ふみ君、地下鉄は嫌だよ、連れて歩いて帰ろうよって」
長く垂らしてる糸を持ち、風船を下してふみに渡す。
お天気だから、歩いて帰ることに。
豚さんのサンタに大受けのふみ。
ぶらぶらと歩くわたし。
「ケンケンパー、ケンケンパー」とずっと跳ぶふみ。
風船は、当たり前のように、わたしが持つ。
最近ふみは、このケンケンパに夢中で、一緒に歩くといつもそれの練習。
ケンケンパはいいが、それからのケンパ、ケンパ、ケンケンパになると、よく乱れてしまう。
疲れたか、ふみは跳ぶのやめ、わたしの手から風船を取った。
右手に左手を換える時、風船、ふみの手から離れ、垂直上昇した。
赤い風船、街灯を越え、ビルを越え、高い空へ。あっという間に、小さい赤い点になって。
「へぇ〜、風船って、こんな高く飛べるんだね、今日、雲もないから、きれいに見えるね、ね?ふみ」
ふみは、顔をわたしのコートに埋めて、泣いた。
昨夜、パパが撮った月蝕の写真。
わたしは寒さでおっくうになり、ベランダに出て行かなかった。
今日の産経新聞に載っていた写真。
主人の実家の地域のだ。
訪れている変化は、季節のめぐりだけのようだ。