たま蓮根

朝、些細なことでふみと喧嘩になり、しばらく続いた。

ふみ、頑固というか、自分が正しいと思うことに少しもぶれない、譲れない、どういっても、折れる余地がない。


怒ったわたしはふみに、「もう宿題はやめて、やったって見ないから、もう塾は辞めさせる、お正月過ぎたら連絡するから、もう行かなくていい!」

「宿題はやる!ぼく、塾は、ぜっっったいに、やめないから!」

「いいのいいの、塾通ったって無駄だから、もうやめる」

「あのね、ぼくが自分で決めること!絶対にやめない、続くから、小学校に入っても」

「あそう、塾のお金、出してあげないからね」

「ぼく、ぼく自分で稼ぐ!もうママなんか、大嫌い!本当に嫌い!ぼくは決めたこと、ぜーったいに最後までやるから!」


((-_-))


お金をだしてやらないなんて、我ながら、自分の卑怯さに驚く。同時に、ふみはなんてこんなに少しも負けてくれないのかを、無力を感じてならない。

怒りを抑えきれないわたしは「そんな強いなら、お昼食べなくてもいいよね。作ってあげないから。お腹がすいたら自分で作れば。なんにもできないくせに」

「いいよ。ぼくお腹すかないもん」ふみは涼しい顔をして見せる。


フライパンやお玉をわざと派手な音を立てながら、わたしは自分のご飯を用意する。

ふみは、何事もないように、「ほぉーはぁー」とはしゃいで“戦う”、「あ、この剣は弱いな」と言って、チラシを引っ張りだして“剣”を作る。


なんなの?!もう少し沈痛な顔、深刻な顔をしてよ!


カチャカチャ、カンカン、フライパンは、喜びか、怒りの音が発する。


「さぁー、いただきま〜す、あ〜美味しそう美味しそう」
それを聞いてふみは近付いて、お皿の中身を覗いて「フン」とすぐ去った。

わたしのお昼は、昨日のきんぴら蓮根とご飯を適当に炒めたものだった。

うん、これじゃ、ふみになんの悔しい思いも起こせないわ。

ふみ、蓮根好きじゃないもん。


それでもわたしは黙々とご飯をかじり、見た目もイマイチ、それに薄味だな、味付けしたっけ。
タイ料理の辛い調味料を出して、ジョボジョボと掛ける、さらに冷やかとふみはこっちを一瞥する。


「ふみ、お腹すかないのね?すごいね」
「別に。ほぉーほぉほぉ、はぁー」

激しく動くふみはほっぺが真っ赤。この子、水を飲んでないね、ダメよ。
「あははは、ふみ、顔真っ赤だね」
無視された。
「あ、なんだか八戒からいいにおいがしてきた、焼き豚になるブー」
「やめて!それを言ってほしくない!」ふみは動きを止めて厳しい口調で言う。

「だってそうなってるもん。八戒たち水がないから…」
「とにかくそれはやめて!」


バカね、この子。水を飲んだほうがいいよってことよ。


「ふみ、水飲めば。顔が真っ赤」
「水?あ…、いいや、コップ取るのめんどう」

もういい!こんな子なんか心配しなくていい。


わたしは向こうの部屋へ行って、ドアを締める。


しばらくしても、なにかをちゃんと食べてる気配もない。
バカね〜もう1時半だよ。


ドアを開け、「あれ?ふみ、お腹すかないんだ」
「うん。すかない」


バカね〜、すいたって一言でも言ってくれればいいのに。あるいは黙って答えなくてもいいのに。


(ー_ー)

「ふみ、ラーメン、食べる?」
「たべるぅ〜」

知人から頂いた博多の豚骨ラーメンがあるから。

すばやくベーコンと玉ねぎとしめじを炒めて、麺にトッピングして、テーブルに出す。
「美味しそう、ママが作ったご飯は最高だよ」
本当に美味しそうに食べてるふみを見て、なんだか、虚しい気持ちでいっぱい。


わたしって、なんもできないね。この子に。
ふみはわたしの言ってることなんか、聞かないし、気にもしていない。

「どうしたの?涙出てるよ」とふみに言われて、
「ママなんもできないなって。ご飯を作って、洗濯して、それだけの存在だねって」
「それで充分だよ。ぼくが高校生になったら、いや、中学生になったら、もうママは僕の言うことを聞いてればいいよ」

??!!
「あ、でも、僕中学生の時、ママまだおばあさんじゃないよね。でもやっぱり、老いては子に従え」

!!
ふみの大好きなことわざのカルタだ。
老いてはって…


返す言葉がないまま、わたしは息を飲むばかり。

「あ、その時はね、マックは一ヶ月ニ回にしてぇ〜、ね、いいでしょう?」

……。


夕飯に、ふみには大好きなカレーを作り、あとは蓮根の肉詰め揚げ。

肉には、しょうが、醤油、胡椒少々で味付けして、本当に美味しい。
パパは絶賛。ふみは肉を蓮根から剝して食べて、絶賛。