11時過ぎまで
日がだいぶ短くなり、夜になると、コオロギや鈴虫の鳴声も止まらない。
秋のはず。早く気温も秋らしく感じさせてほしい。
ふみは口笛に夢中。毎日“ヒューヒュー”と、くちびるを尖がらせて猛練習。
たまに“ビュー”と響く時もあるが、まだまだ口笛らしき口笛にはなっていないんだ。
昔の玩具を取り出して遊ぶふみ、小さいマイクの付いてる絵本なんだけど、マイクはもう雑音だらけで、それでもふみは真面目にテストを。
もちろん「本日は晴天なり」ではなく、「あ、ああ」とか。
急に「ゲンパツ、ハンタ〜イ」「オスプレイ、やめろう〜」と叫び出した。
はっ?
原発反対は、たぶん、何回か駅辺りで、官邸へのデモの帰りのだらだらと歩く集団とあった時の記憶だと思う。
カラフルな旗を持って、炎天下で進行している列は、ふみには、ちょっとした衝撃だったのかも。
オスプレイは、ニュースの映像からでしょうね。
夜7時、地下鉄駅近くの居酒屋で、元保育園の親睦会に参加。
半年ぶり、お母さんたちと会った。
「保育園はラクでしたね」
「ね〜、小学校がたいへん」
わたしも同感。だが、わたしの理由は、保育園はPTAの苦労がなかったから。
でもみんなは、子供での感想。
まず毎日の学校からの国語と算数の宿題、つまりあの動物や人間だらけの絵の付いてるプリントが、なかなかできなくて苦労する。
宿題のため、お母さんは叱る、子供は泣く。
へぇ〜。ふみは、学校の宿題を苦にしたことがないと思う。
夏休みの宿題のドリル一冊だって、ダメよとわたしは言っているのに、最初の何日間以内、全部完成させてしまって。
塾の宿題を毎日15枚も、ずっとやってた。
こう考えると、ふみを塾に入れてよかった。
この前の検定の結果を見ると、今は、3学年先のをやってるみたい。
確かに、たとえば国語、わりと難しい漢字も書いてる。
小学校では2学期から、やっと簡単な漢字を習い始めて。
保育園と幼稚園の違いは、多々あるようだ。
幼稚園の方針は「教育」なので、かならず机の前に座らせる時間も設けてる。
お勉強する。
保育園の方針は「保育」。お勉強はない。子供たちは毎日、思いっきり体を動かしてる。
なので保育園出身の子は、明らかに幼稚園出身の子より、身体能力が高く、逞しい。
しかも、ふみの保育園の同級生を見ると、暗い子と言うか、人とコミュニケーションが取れないタイプの子は、いなかった。
一昔前の子のように、お互い思いっきりぶつかって、それで人間関係や、社会への勉強ができるようになる。
だけど勉強していないから、いきなり小学校で毎日机の前に座って、毎日宿題、それは苦労をする。
どっちがいいのか。その前に、お母さんが働いてるのなら、保育園に入れ、お母さんが専業主婦なのなら、幼稚園へ。だね。
今は、保育園と幼稚園のこの差を無くそうと、「子ども園」というシステムを導入して、全国でもこの区は、早々と実践してきて。
ふみのいた保育園も、まもなく子ども園になるらしい。
「それでね、保育園に幼稚園の先生を入れなきゃならないから、保育園先生と幼稚園先生の考えや、やり方が、かなり違うでしょう。対立と言うか、衝突もすごいらしいよ」とT君のママが。
「お受験はどう?させるつもり?」とS君のパパが。
「まさか!とんでもない、あははは」とKちゃんのママが。
話題は自然に子どもから夫婦へ。
お母さんたちはもう、夫の悪口競争大会が始まって。
「私が断然に強いもん、ガーーと言うから、向こうはいつも黙ってるだけ、もう、夜が明けるまで、ずっと黙るっていう勢いよ…」
「そうそう、わかるわかる。うちなんか、すぐ、しょぼんとなって、反省してるという意味かわからないけど、ご飯を作るのよ。え〜〜、何これ、焼きそば?これ、食べれるものなの?油ペチャペチャ、なにこれ、悪いけど気持ち悪くて私は食べれない…」
「なんかさー、うちの、K君のところと、あと誰でしたっけ、3、4人で、パパの会を開いたみたいで、帰って来たら、“俺まだいいほうだよな、K君パパ、毎晩ご飯を作ってんだよ、たいへんだ”って言って、ほらね、幸せに思え…」
笑って聞いているわたし。
みんなの共通認識は、子供がいない時、こうではなかった。子どもが生まれると、いろいろというか、全てが変わった。
とにかく子育てはたいへん、夫婦は衝突。
子どものいない時は、仲が良かった。
「もう、うちは僕がいつも子どもたちを聞いてるもん」とS君のパパ。
「もしパパとママ別れたら、どっちに付いて行く?って、うち、息子はママ、ママって言うけど、あれね、まだわかってないよ。僕は今、両親のことを思い出すと、やっぱりお父さんがよかったよ、ゴヂャゴヂャ言わないから。母親ってさー、うるさいじゃない、ちょっとしたことで、ずっとワワワワ言うじゃん…」
「いや、それはないよ、お父さんはだいたい無責任って言うのは、子供は感じるのよ」
…
泣いてる、吐いてる人はなくて、めでたしめでたし。
こういう話を聞いて、面白いと思う同時に、つまらないなって、
けど、出ないと、たまにしか集まらないし、「ふみ君のママはいつも参加しない」と言われたくないし、わたしだけなら言われても構わないが、ふみに迷惑かけちゃいけないなって。
ただでさえ、「私たちにとって、あなたは謎の世界の人」と言われるし。
謎の世界の人、11時過ぎまで付き合って、それから、おいとましました。
子どもたちは別テーブルで騒ぐ。
こんな時間帯、こんな環境に、子供を連れてくる親の気持ち、わからないや。